未来をつくる大学の研究室 電波天文学・星の誕生

福井康雄

福井康雄 教授

ふくい・やすお
1951年大阪府生まれ。理学博士。専門は電波天文学。79年、東京大大学院理学研究科博士課程修了。名古屋大理学部助教授を経て、現在、名古屋大大学院理学研究科天体物理学研究室教授。91年に井上学術賞、95年に日産科学賞、01年に中日文化賞、03年に日本天文学会林忠四郎賞など、受賞歴多数。主な著書に『大宇宙の素顔』『大宇宙の誕生』(共に光文社)、『私たちは暗黒宇宙から生まれた』(編著・日本評論社)、などがある。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 1/6  次ページ

未来をつくる大学の研究室 04
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

名古屋大大学院 理学研究科 天体物理学
電波天文学・星の誕生

ここ30年間で大きな進歩を遂げた天文学。「冥王星は惑星か」をめぐる議論も記憶に新しいが、

銀河や星の進化の過程は多くのなぞに包まれている。電波による天体観測と膨大なデータ採取により、

数々の世界的発見をした福井康雄教授に、研究手法と成果の一端を語っていただいた。

電波天文学って?

分子ガスの発する電波で天体を観測する

星や銀河はどのようにして生まれるのか。それを解明できる最も有効な手法が電波天文学だ。宇宙に漂うガスの雲を観測し、「星の赤ちゃん」を見つけ出していく。「天体観測」というと、光学望遠鏡を使って星の光を捉えるというイメージがあるだろう。しかし、光以外のさまざまな電磁波を捉えるのも、天体観測の有力な手法だ。電波天文学は、分子が運動する際に発する電波を調べ、星の誕生のなぞを解き明かしていく注目の学問だ。


教授が語る

宇宙と向き合うことが人間とは何かを知る重要な手がかりになる

福井康雄 教授

電波天文学との出合い
森羅万象を理解するために宇宙のなぞに挑む

 宇宙のなぞを解明することが、森羅万象を理解することにすべてつながっていくのではないか――。

 私がそんな大きな夢を描いて、天文学者を志すようになったのは、小学3年生のころです。とにかく好奇心旺盛な少年でした。生物や植物、石、空、月、星、太陽……。神秘的なもの、美しい事象はすべて興味の対象になりました。中学生、高校生になると、興味の対象は更に広がり、自然科学に加え、絵画や音楽、文学や哲学にも手を伸ばしました。視野の狭い天文学者にはなりたくなかったのです。

 大学院への進学を考え始めたころ、その後の私の研究手法に大きな影響を与える重要な研究成果に出合いました。

 1970年、一酸化炭素分子の出す電波が宇宙空間で発見されました。光では見ることができない分子(※1)を観測できるようになったのです。銀河には、「暗黒星雲(※2)」と呼ばれる肉眼では決して見ることのできない暗い領域があります。そこでは、水素や炭素、窒素といったさまざまな原子からなる分子ガス雲(※3)が形成されています。その分子が運動することで発する電波を捉えるのです。

 電波で分子ガス雲を調べる手法は、当時はまだ確立していませんでした。しかし、先人たちが研究し尽くしてしまった分野のあとを追うというのは、私の性に合わないと思いました。多少のリスクはあっても新しい分野に挑戦して自分を試してみたい、発見の喜びに満ちた研究生活を送りたい……。そんな思いから、始まって間もない未知の分野に飛び込んでいったのです。


用語解説
※1 分子   原子が2個以上結合したもの。プラスとマイナスの電気を持った分子が、星間空間でほかの分子とぶつかることで電磁界の振動が起こり、電波を生じる。
※2 暗黒星雲  「天の川」の中にシミのように暗く見える星間物質の塊。分子ガス中に含まれる塵が光を吸収するため、肉眼では見えない。
※3 分子ガス雲  水素分子ガスを主成分とするガス雲で、密度は1立方センチメートルあたり100個以上といわれる。ガス雲の中は塵によって星の光が遮られ、内部は摂氏マイナス260℃と極低温である。
写真

  PAGE 1/6  次ページ