真のリーダー育成を目指して チームを率いて全く新しい価値を創り出す

西村克己

▲芝浦工業大大学院
工学マネジメント研究科教授

西村克己

にしむら・かつみ
1956年岡山県生まれ。東京工業大大学院工学研究科修士課程経営工学専攻修了後、富士写真フイルム(株)に入社し、経営効率化推進室に配属。(株)日本総合研究所に転職して経営コンサルタントとして活躍し、2003年より現職。専攻はプロジェクトマネジメント、MOT(技術経営)、経営戦略、戦略的思考、図解思考。『よくわかるプロジェクトマネジメント』(日本実業出版社)、『戦略的な考え方が身につく本』(中経出版)など著書多数。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 1/3  次ページ

真のリーダー育成を目指して(7)

チームを率いて全く新しい価値を創り出す

芝浦工業大大学院工学マネジメント研究科教授 西村克己

近年、企業ではプロジェクトによる経営が重視されるようになり、
リーダーに求められる能力も変わりつつある。
経営コンサルタントとして数多くの企業にかかわる西村克己氏が考える
企業での新しいリーダー像をうかがった。

西村氏が考える
リーダーに求められる力
多様な視点から自己や他者の長所を見つけ出し、認める力
メンバーの能力を引き出し成功に導くための答えを探し出す力

企業が求めるリーダーの要件が変化してきた

――企業では、既存の組織に加えて、プロジェクトチームによって事業を運営するケースが増えています。プロジェクト方式が重視されるようになった背景は何でしょうか。

 

 「プロジェクト」とは、特定の目的を達成するために臨時に結成される組織です。その目的は、主に新商品開発や新規事業、経営改革などで、メンバーはさまざまな部署から招集されるのが特徴です。
 社会や消費者は常に変化しており、それに合わせて、企業も変化することが求められています。顧客の意思決定は早くなり、そのニーズは多様であるため、売れている商品でもブームは短期間で過ぎ去っていきます。ましてや売れないものは、とことん売れない時代です。そこで、企業は顧客ニーズをしっかり捉えて、売れる商品をスピーディーに開発・販売していく必要があります。そのためには、開発・仕入れ・生産・販売といった各部門の連携が求められています。それぞれの部門がバラバラに活動してもうまくはいきません。
 過去の成功体験は役に立たないことが多く、現状維持では企業は生き残れない時代です。だからこそ、顧客ニーズを捉えた新しい価値をスピーディーに創出する「プロジェクト」が求められているのです。プロジェクトは、社内の各部門から、ときには社外から、優秀な人材が集まる横断的な組織ですから、当然、そこで求められるリーダーの資質も変わってきています。

 

――既存組織のリーダーとプロジェクトリーダーとでは、必要な能力に違いがあるということですか。

 

 そうです。既存組織では、現状の枠組みをベースにした活動が多くなります。そのため、リーダーにはある意味、日常業務を確実に推進する管理能力が求められます。
 一方、プロジェクトは、現状の枠組みではなく、特定の目的の達成に注力する活動です。目的は明確でも、そこに達するまでの方法は決まっていません。リーダーには、新しい価値創造に向けた先見性と共に、プロジェクトに投入された「人」「モノ」「金」「情報」をうまく活用しながらメンバーをゴールへ導いていく能力が強く求められます。

 

――リーダーシップの発揮の仕方にも、違いは出てきますか。

 

 プロジェクトのメンバーは、開発部門や販売部門などの各部門から集められた専門家集団というのが一般的です。組織体系も、既存組織は課長、係長、一般社員というように序列が明確なピラミッド型ですが、プロジェクトはフラットな組織です。一方的な指示だけでは、メンバーの反発を招きかねませんし、彼らが持つ専門家としての能力を効果的に引き出すこともできないでしょう。プロジェクトリーダーは、専門家集団を率いる者として、自身にも多様な専門分野における幅広い知識と経験が必要なのです。
 また、プロジェクトの成功には、会議目的の明確化も重要です。例えば、プロジェクト活動はいくつかの小グループに分かれて進められることがよくあります。その場合、目的ごとの小グループである分科会やプロジェクト全体を統括するための全体会など、各会議の目的、メンバー、頻度を適切かつ明確にしなければ、プロジェクトは進まなくなります。

 

――経営コンサルタントとして、これまで多くの企業とかかわってきて、プロジェクトリーダーとしての要件を備えた人材の現状をどのように捉えていますか。

 

 極めて少ないと感じます。これまでは、データベースを活用する力に優れていることが、組織を管理する上で重要でした。官僚組織などはその典型ですが、新しい案件が出てきたときに、過去の成功例をリサーチし、踏襲する方法を取るからです。
 しかし、環境が目まぐるしく変わる現代では、かつては正しいとされていた判断が今も正しいとは限らなくなっています。このような状況では、前例に頼るのではなく、メンバーの能力を活用しながら自分たちで答えを探り出さなければなりません。
 ところが、そうした訓練や経験をしている人はまだまだ少ないのです。そのような現状に、企業は危機感を抱いています。社員教育も、従来の横並びの階層別教育ではなく、リーダー候補を対象に、経営戦略論やプレゼンテーション、コーチングなど、プロジェクトリーダーとして必要な能力の養成を目的とした研修を行う企業が増えています。


  PAGE 1/3  次ページ