真のリーダー育成を目指して 神奈川県私立聖光学院中学校・高校
工藤誠一

▲聖光学院中学校・高校校長

工藤誠一

Kudo Seiichi

教職歴・同校赴任歴共に29年目。「生徒一人ひとりが自らに与えられた使命を自覚することが大切。限られた時間の中で1日1日を大切にしてほしい」

村山郁男

▲聖光学院中学校・高校教頭

村山郁男

Murayama Ikuo

教職歴・同校赴任歴共に34年目。「自らの成功だけに執着せず、家族も含めてすべての人を幸せにできる人材を育てていきたいと思っています」

安宅克己

▲聖光学院中学校・高校

安宅克己

Ataka Katsumi

教職歴・同校赴任歴共に25年目。教務部長。「すべての生徒は無限の可能性を持っている。教師として、生徒の資質を開花させられるとよい」

森英人

▲聖光学院中学校・高校

森英人

Mori Hideto

教職歴・同校赴任歴共に29年目。教務部副部長。「授業を通して、男気と人間の懐の深さを伝えていきたい」

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 1/3  次ページ

真のリーダー育成を目指して(8)

学力と教養を身につけ、人々の「共感」を呼ぶリーダーを育てる

神奈川県私立聖光学院中学校・高校

聖光学院中学校・高校は、例年東京大に2桁の合格者を送り出す。
神奈川県にある私立の中高一貫校だ。カトリック系のミッションスクールとして全人教育を徹底し、顕著な進学実績を上げ続けている。
同校の理念と育てたい人材像、指導のポイントについてうかがった。

聖光学院中学校・高校が考える
リーダーに求められる力
人から「ありがとう」と自然に言われる力
自ら問題を発見し、解決できる自己教育力

自然に「ありがとう」と言われる人間を育てたい

――御校は、カトリック系のミッションスクールとして全人教育を行いながら、社会のリーダーとして活躍し得る人材を育てています。御校の考えるリーダー像とは、どのような人でしょうか。

 

工藤 私たちが大切にしているのは、カトリック精神に基づいた「愛と奉仕の精神」です。カトリックが重視する「愛」とは、だれからも顧みられることがなく、価値がないと思われるものに対しても注がれるものです。近年は、社会のあらゆる場面で合理性・効率性が重視され、それを先取りできる人間が社会的に有為な人材であるように思われています。しかし、私たちが考える真のリーダーは、人々から自然に「ありがとう」と言われる力を持った人です。
 例えば、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは、一般的なリーダー像とは異なるかもしれません。しかし、彼女は多くの貧しい人々から「ありがとう」と言われる力を持っています。他人の痛みを知り、弱い立場にある人々にも手を差し伸べられる志と能力を養うことが、本校のミッションだと考えています。

 

村山 人をまとめる統率力や、他人を説得できる論理力といったスキルは確かに重要です。しかし、饒舌で行動力があっても、土台にそうした人格がないと、人々の共感を呼ぶことはできません。語り口が朴訥であってもいい。物静かな振る舞いでもいい。他人から「ありがとう」と言われる力を持つ人こそが、「共生」が重視される21世紀にふさわしいリーダーなのではないでしょうか。

 

――御校は、東京大に40名前後が合格するなど、難関大に合格者が多数輩出する進学校でもあります。カトリック的な全人教育と、厳しい受験競争を勝ち抜く学力を身につけさせることは両立するのでしょうか。

 

 すべての者を包み込む懐の深さは、その人が謙虚になって初めて生まれてくるものです。自分がいかに小さな存在であるかということに気づかなければ、他人への優しさもうわべだけのものになってしまいます。
 日々、学習指導をしていて感じるのは、「勉強」とは人を謙虚にさせるものであるということです。高1まで斜に構えていた生徒が、ある日、真剣な眼差しで質問に来ることがあります。それは、厳しい勉強を通して自分の学力の低さ、努力の足りなさに気づいたからです。己の存在の小ささを知ることがその人を強くします。その意味で学習指導と人格教育とは矛盾しないと思います。

 

実社会で必要な自己教育力を養う

――そうした理念を実現するために、日々の学習の中でどのような力を身につけさせたいとお考えですか。

 

村山 困っている人に手を差し伸べるにしても、何が問題であり、解決のために何をしなければならないのかを考える必要があります。社会に出たら、いつまでも他人に教わってばかりはいられません。社会に有為な人材となるためには、自分自身で課題を見つけ、解決できる「自己教育力」を身につけることが大切です。

 

 自己教育力を身につけさせるためには、普段の授業における教師の意識が大切です。私の担当教科は数学ですが、受験対応のテクニックを教えるだけでは、ある程度のレベルまでは到達できても、どこかの段階で必ず伸び悩むことになります。単なる小手先のテクニックではなく、なぜその解が導き出されるのかというところまで、論理的に考える訓練を普段の授業の中でさせることが大切です。立派な教材をつくることも重要ですが、教師がどのように教えるかという意識の違いによって、その精神は伝わっていくと思います。

 

村山 本校では毎年6月に全校生徒にアンケートを行っています。「授業はわかりやすいか」「好きな科目は何か」など、授業や学習、生活に対する生徒の意識を探る内容です。
 興味深いのは、「学力向上のために、あなたが必要だと思うものを挙げてください」という項目について、本校の生徒は中1から高3まで、すべての学年で、「努力」「授業をきちんと聞く」「勉強の仕方を工夫する」が必ずトップ3に挙がることです。選択肢には、「参考書の選び方」「予備校」などの項目もありますが、「予備校」と答える生徒はほとんどいません。「勉強の仕方を工夫する」というのは、まさに「自己教育力」です。どうしたら学力を向上させられるか、それぞれの生徒が自分なりに工夫していることの表れではないでしょうか。

 

 「授業をきちんと聞く」というのも、本校の教師が「授業こそ信頼の要である」という意識で授業をしているからでしょう。本校では、代数はA先生、幾何はB先生というように、1人の教師が一つの分野を全クラス分、受け持ちます。1学年を複数の教師で分担すると、教師の指導法によって生徒が受ける授業の質に差が生まれ、クラスごとに成績の差が出るおそれがあるからです。一つの分野を1人の教師が受け持つことで、結果は模試などを通して歴然と表れます。
 先ほどのアンケートには「どの科目がわかりやすいか」という項目もあります。そこで教師の努力は如実に表れます。厳しい環境の中で授業を行うからこそ、生徒は教師を信頼し、安心して自分なりに学習法を工夫できるのだと思います。

 


  PAGE 1/3  次ページ