未来をつくる大学の研究室 経営学
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研究テーマと業績
経営学は机上でコツコツと研究する学問ではない

 企業が画期的な商品やサービスを生み出し、社会に大きな変革をもたらすことがあります。そうしたイノベーション(※3)が創造される過程を理論付けることは、私の重要な研究テーマの一つです。「ホンダ」の大ヒット大衆車「シティ」や、「松下電器産業(ナショナル)」から発売された「ホームベーカリー」をはじめ、社会的な影響の大きかったケースを分析し、企業が新しい価値を生み出す過程を探りました。
 企業活動は、必ずしも、外部に目立つ形で表れるとは限りません。例えば、数百年間続く老舗企業は、何も変わらないように見えていても、その内実は時代に合わせて新しい経営を取り入れながら、老舗の看板を守り続けています。どのタイミングで後継者にバトンタッチし、更なる発展につなげるか、といった非常に難しい経営判断が存在するのです。

写真
写真1  企業活動は、世の中に変化をもたらし続けている。その歩みを研究することは、資本主義の発展の歴史を振り返ることにほかならない。

  企業だけでなく、業界の動向も追っています。90年代に、日本は家電やカメラ、ファクシミリといった業界で圧倒的な強さを誇りましたが、逆に金融やソフトウェアは非常に弱いものでした。そうした状況は何に起因するのかと不思議に思い、世界的に見て日本が優位である20の業界、逆に劣位である7の業界を取材し、その要因を分析しました。
 現在は、「トヨタ」に関して分析しています。「トヨタ」は、07年にアメリカのゼネラルモーターズ(GM)(※4)を抜いて、世界販売台数で首位に立つことが確実視されていますが、ある意味、とても不可解な会社です。愛知県の一企業にすぎなかった会社が、なぜ世界を制覇する企業にまで成長できたのか。「トヨタプロダクションシステム(TPS)」(※5)については、さまざまな文献で説明されていますが、私にはどうしても腑に落ちないものがありました。それらの文献では生産システムというハード面の説明に終始し、企業において重要な要素である「人」というソフトに対する視点がなかったからです。そこで、今、2人の仲間と共に、人間的な側面から「トヨタ」の強さの秘密を探る研究を進めています。
 更にグローバリゼーションに関しても、研究を続けています。皆さんは、20年前にグローバリゼーションを推し進めていた企業は、どの国に多かったと思いますか。実は、日本なのです。当時の日本には、新しく高品質なものを安価に世界に提供できる、グローバリゼーションの「優等生企業」が数多く存在しました。ところが今では、グローバリゼーションの面では欧米に押され気味と言わざるをえません。その要因を明らかにし、世の中に提示すれば、今後の企業活動に大きな意義をもたらすことになるでしょう。

用語解説
※3 イノベーション  新しい技術や考え方を提供することによって、社会的に大きな変革をもたらすこと。技術革新。
※4 ゼネラルモーターズ(GM)  アメリカ・デトロイトに本社を置く、世界最多の販売台数を誇る自動車メーカー。キャデラック、コルベット、サーブなどのブランドを持つ。
※5 トヨタプロダクションシステム(TPS)  トヨタ自動車の強さを支える生産方式。徹底した無駄の削減、部品などの在庫を持たない「ジャストインタイム生産システム」などが特徴。日本の自動車製造業の典型的な生産方式とされ、海外にも広く知られている。日本では「トヨタ生産方式」として有名。

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