指導変革の軌跡 宮崎県立宮崎商業高校「進路指導」
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 13/13 前ページ  

進学・就職の実態を画像でリアルに伝える

 ガイダンスの最大の目的は、「正社員として働くことの大切さ」を生徒に意識させることだ。「総合職と一般職の違い」など就職に関する基礎知識のほか、大学・短大・専門学校の納付金の比較、高卒のパート労働者・派遣労働者と大卒正社員との生涯賃金の違い、ニートやワーキングプアといった諸問題にも言及する。特にアパレル、ブライダル、メイクなど、生徒に人気の高い職種については、イメージだけが先行しないよう、労働環境や賃金体系の実態をリアルに伝える。
 「現実を知って、ショックを受ける生徒もいます。しかし、職種に伴うリスクや就労の現状をきちんと伝えることは、私たちの役目です。実態を知り、それでも本当にその仕事をする意思があるのか、という覚悟を促すためにも、こうした情報を伝えることは欠かせません」(田代先生)
 情報は口頭で伝えるだけではなく、プレゼンテーション用ソフトを使って視覚的に訴えている。例えば、大卒と高卒の生涯賃金の格差が、男性では3000万円、女性では7000万円とすると、これを「男性はレクサス3台分」「女性はティファニーのネックレス30個分」などと、実際のものに置き換えて、写真入りで伝える。「言葉だけで伝えても、生徒は実感しづらい。ビジュアルも入れながら、インパクトを与えることが大切」と田代先生は強調する。

ウェブアンケートで卒業生の生の声を伝える

 先輩や卒業生を積極的に活用する取り組みも始めた。1月末には、進路が決まった3年生が1・2年生の教室で進学・就職別に体験を語る講演会を、3月中旬には、卒業生による進路講演会を行った。
 2月末にはイントラネットを利用して進路アンケートを行い、結果を基に進路指導部が学力と進路意識との相関を分析した。「進路意識の高い生徒が多いクラスは、学力も高いという結果が出ました。進路に対するモチベーションを高めることが、学力を高める上でも重要なことを改めて感じました」と犬塚先生は語る。この内容は、「進路実現に向けた展望と課題」として1・2年生にも説明している。
 また、ウェブサイトを通して、卒業生の声も集め始めた。卒業時に携帯電話のメールアドレスを登録してもらい、同校の携帯専用サイトを通してアンケートを行った。「進学先・就職先の印象」「想像と違った点」「進学・就職して良かったこと・悪かったこと」「後輩へのアドバイス」などについて回答してもらい、結果を進路指導部が集約して生徒に提示するという取り組みだ。現在約70名の卒業生が登録している。「先輩からの生の情報だけに、生徒に与える刺激は大きい」と田代先生は評価する。
 改革から1年。その成果は、進学実績に早速表れた(図3)。06年度17名だった国公立大合格者は、07年度は32名へと増加。逆に専門学校は66名から56名に減り、専門学校進学者の6割は医療・看護系だった。明確な目的意識と高い目標を持って進学先を決める生徒が増えているのだ。

図3

 「高校時代に深い専門性を追求した生徒だからこそ、具体的な将来像を描きながら、より良い進路選択をすることができる。その意味で、商業高校には多くの可能性があります。今後は改革を加速させ、商業高校の新しい姿を提示していきたいと思います」(犬塚先生)


  PAGE 13/13 前ページ