学生時代は、もともと建築学を専攻していました。だから、将来は建築家になるのだろうと、漠然と思っていました。ところが、実際に設計演習が始まると、いくら自分が苦労して設計しても、才能豊かな人には全くかなわないことがわかったんです。建築学は経験工学ですから、優れた建築物を見て回って、その良さを取り入れることも必要です。しかし私は、そういうことに今一つ興味を持てなかったんです。
そんなとき、1人の教授から地震工学の歴史に関してこんな話を聞きました。それは、「かつて建築の世界では『柔剛論争』があり、柔らかい構造物と固い構造物のどちらが壊れにくいか、長く論争が行われた。ところが後年、『大切なのは建物の耐力×変形量で、どれだけエネルギーを吸収できるかである』と新しい観点が提示された」といった内容です。まだ地震記録さえきちんと取られていなかった大正・昭和初期から、このような論争を経て地震工学が発展してきたことを知って、私はこの学問に興味を持ちました。
一般に、構造物を設計する際、時間的な変化のない静的な力(※1)をかけると、どの程度変形するかをチェックします。地震動(※2)を振動成分に分解して、静的な力に置き換えて計算しているわけです。私が大学で教わってきた構造的な設計のノウハウの90%以上は、静的な力を想定したものでした。しかし、地震動は時間と共に変化する動的な力です。したがって、動的な力に対して建物がどのような影響を受けるかについては、実はよくわかっていなかったのです。つまり、多くの建物は経験的には大丈夫だろうと考えられていますが、「こういう数値的な根拠があるから壊れない」ということがきちんと説明できないまま設計されているのが現状です。そこで、私は動的な力に対する構造物の非線形な変形(※3)を、正確に求めようと解析しているのです。
地震工学に取り組んで面白く感じるのは、プロセスをきちんとモデル化すると、観測した結果はきれいに説明できるということです。地下構造がわかれば、震源からの揺れがどのように地上まで伝わってくるのか、はっきりと理解することができます。相手が自然でも、真実は一つであり、ただ我々が知らなかっただけ。それを探る面白さがあります。地震が起きたときに建物はどういう状態だと倒れるかも、きちんと計算して、説明できます。だから、それをしないで、ただむやみに絆創膏(ばんそうこ)を貼るように建物に耐震補強をするのはおかしなことだと思うのです。 |