未来をつくる大学の研究室 地震工学

安藤恒也

川瀬 博 教授

かわせ・ひろし
1955年生まれ。京都大工学研究科建築学第二専攻修士課程修了。清水建設(株)原子力部を経て、1998年九州大大学院人間環境学研究科助教授、 2000年より教授。その間、1986年から2年間、南カリフォルニア大学で地震学を学ぶ。1990年にその成果をまとめ京都大において工学博士の学位取得。2005年より21世紀COEプログラム「循環型住空間システムの構築」拠点リーダー。日本建築学会賞(論文)受賞。主な研究テーマは、強震動予測、地盤構造探査、構造物被害予測、災害の環境負荷リスク評価など。

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未来をつくる大学の研究室 10
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

九州大大学院 人間環境学府 都市共生デザイン専攻
地震工学

日本は世界でも有数の地震国である。事実、人的被害が発生した地震は、 気象庁の調べによると2007年に入ってから6件発生(8月末現在)しており、 多数の死傷者が出た地震も起きている。 人々の生命・財産を守るためにも、地震に関する研究の進展に大きな期待が寄せられている。

地震工学って?

地震について多角的な視点で研究

ひとたび大地震が発生すれば、建物の倒壊や火災の発生などにより、多くの死傷者が出るのはもちろん、上下水道や電気、鉄道や幹線道路など生活を維持するためのライフラインの停止により、人々は不便を強いられることになる。地震と地面の揺れのメカニズムを解明し、その被害を最小限にとどめることができる建造物、そして都市をつくるため、地震学や建築・土木工学、機械工学、防災計画学など、多岐に渡る視点から研究が進められているのが地震工学である。


教授が語る

高度なシミュレーションで
人々が安心して暮らせる都市づくりを主導する

安藤恒也 教授

地震工学との出合い
建築の世界から地震を観測・モデル化し、説明する世界へ

 学生時代は、もともと建築学を専攻していました。だから、将来は建築家になるのだろうと、漠然と思っていました。ところが、実際に設計演習が始まると、いくら自分が苦労して設計しても、才能豊かな人には全くかなわないことがわかったんです。建築学は経験工学ですから、優れた建築物を見て回って、その良さを取り入れることも必要です。しかし私は、そういうことに今一つ興味を持てなかったんです。
 そんなとき、1人の教授から地震工学の歴史に関してこんな話を聞きました。それは、「かつて建築の世界では『柔剛論争』があり、柔らかい構造物と固い構造物のどちらが壊れにくいか、長く論争が行われた。ところが後年、『大切なのは建物の耐力×変形量で、どれだけエネルギーを吸収できるかである』と新しい観点が提示された」といった内容です。まだ地震記録さえきちんと取られていなかった大正・昭和初期から、このような論争を経て地震工学が発展してきたことを知って、私はこの学問に興味を持ちました。
 一般に、構造物を設計する際、時間的な変化のない静的な力(※1)をかけると、どの程度変形するかをチェックします。地震動(※2)を振動成分に分解して、静的な力に置き換えて計算しているわけです。私が大学で教わってきた構造的な設計のノウハウの90%以上は、静的な力を想定したものでした。しかし、地震動は時間と共に変化する動的な力です。したがって、動的な力に対して建物がどのような影響を受けるかについては、実はよくわかっていなかったのです。つまり、多くの建物は経験的には大丈夫だろうと考えられていますが、「こういう数値的な根拠があるから壊れない」ということがきちんと説明できないまま設計されているのが現状です。そこで、私は動的な力に対する構造物の非線形な変形(※3)を、正確に求めようと解析しているのです。
 地震工学に取り組んで面白く感じるのは、プロセスをきちんとモデル化すると、観測した結果はきれいに説明できるということです。地下構造がわかれば、震源からの揺れがどのように地上まで伝わってくるのか、はっきりと理解することができます。相手が自然でも、真実は一つであり、ただ我々が知らなかっただけ。それを探る面白さがあります。地震が起きたときに建物はどういう状態だと倒れるかも、きちんと計算して、説明できます。だから、それをしないで、ただむやみに絆創膏(ばんそうこ)を貼るように建物に耐震補強をするのはおかしなことだと思うのです。

用語解説
※1 静的な力  静的な力とは、物体が静止している状態の力関係を指す。一方、動的な力とは、動的な運動を考慮したもので、加速度、慣性力など静的な状態では生じない要素を加えたもの。地震動など時間的に変動する力は、動的な力である。
※2 地震動  震源から伝わってきた地震波によって生じた地盤の揺れや動きのこと。その強さは震度で表される。
※3 非線形な変形  力がかかったときの力と変形の関係が一次式で表すことができる(二つの量が比例関係にある)場合を線形な変形と呼び(いわゆるフックの法則が成立する状態)、限界を超えた力がかかって、より小さな力で大きな変形が生じるようになった場合を非線形な変形と呼ぶ。更に大きな力がかかると変形が大きくなりすぎて崩壊に至る。
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