私は、人間の頭には「速い頭」と「強い頭」があると思っています。日本では「速い頭」が評価されるため、大学入試では暗記勉強が中心となっています。物事を自分なりに噛み砕いて吸収する経験が少ないため、研究者の中でも、他人の説をきちんと検証せずに鵜呑みにしてしまう人が少なくありません。これは、自然科学の研究者にとっては致命的です。
私は元々物理学の基礎研究を志していたこともあり、応用的な研究でも、必ず、物理学的な裏付けをしながら研究を進めてきました。常識といわれていることでも、自分の頭できちんと考え、自ら検証しながら研究を重ねることで、数々の業績を残すことができました。私は、独創的な発明にはこうした「強い頭」が必要だと考えています。
私にとって幸運だったのは、旧制高校時代に自分自身や社会をしっかり見つめられたということです。当時は内申書だけで大学進学ができたため、必死に受験勉強をする必要がありませんでした。第二次世界大戦末期とあって、仲間はどんどん戦争に行き、死んでいく。そういう中で、人生とは何か、社会にどのように貢献していくべきかということを真剣に考え、仲間と語り合う時間が持てたことは貴重な経験でした。
大切なのは、物事をとことん突き詰めて考え、自己をしっかりと確立すること。常にあきらめず、愚直一徹に自分の仕事に邁(まい)進すること。それは、自然科学の研究に必要なだけではなく、豊かな人生を送るためにも大切なことなのです。
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