10代のための「学び」考
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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恵まれない研究環境が独創性を生む

 長い研究生活を通して、半導体や光通信技術の分野に貢献することができましたが、どの研究も困難の連続でした。大学には企業や研究機関のように潤沢な資金がありません。常に最低の条件の下で研究を続けてきました。しかし、振り返ってみると、そうした環境がかえって良かったのでしょう。高い実験機械が買えないから、自分でつくるしかない。けれども、企業と同じものをつくっていては勝負にならない。新しい原理の機械を開発しなければならない環境にいたことが、独創的な発明につながったのです。
 最初に発明した「pinダイオード」もそうでした。私が大学3年生のとき、ベル研究所が世界初のトランジスタの開発に成功しました。当時、日本でも多くの研究者が一斉にトランジスタの研究に取りかかったのですが、私はあえてダイオードを研究テーマにしました。人の真似をするのが嫌いだったということもありますが、トランジスタ研究のための機材や材料を満足に集められなかったからです。しかし、ダイオードの研究を試行錯誤しながら続けた結果、99%という高効率で交流電流を直流に変換するpinダイオードの開発に成功しました。日本の半導体技術の業績として、今でもトップに挙げられる発明です。
 光通信の研究のときも同じです。実は、当初研究したのは半導体レーザーでした。実際に開発可能かどうかを実証するために実験が必要だったのですが、出資者がいなくてできない。悔しくて、そのことをアメリカの友人に話したのです。ところが、その友人はアメリカ軍の委託研究のスーパーバイザー。アメリカに研究グループができ、5年後には半導体レーザーの第1号をつくってしまったのです。しまったと思ったのですが、この研究がのちに光ファイバーへと発展。更に電気信号を光に変える素子、光を電気信号に戻す素子につながり、光通信を実現するための三要素すべてを、私の研究から送り出すことができました。


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