『大学入試問題研究』の冊子自体は、生徒が自主的に活用することが前提であるため、授業の教材になることは多くはない。ただ、入試研究を通して高められた教科指導力が、授業の随所で発揮されることは少なくない。
数学科の小川将広先生は、「『何年前のA大に出ていたね』『B大を受けるならここに注意して』と具体的に大学名を出して解説すれば、生徒もその重要性を納得します。また、東北大のように大学が出す入試問題の解説も読んでおけば、『東北大ではこの公式は使わない方がよい』というような、大学個別に合わせた情報を生徒に提供できます」と話す。
英語の授業でも英文を読んでいるときに、「筑波大の入試の英文は癖があるけれど、この英文はそれに似ているね」などと一言添えるだけで、生徒の反応は大きく違うという。
「教師が難関大の入試問題に目を通しているという印象を生徒に与え続けることは、本校のような進学校では大切なことです。生徒の教師に対する信頼感も高まり、3年次の進路指導で私たちのアドバイスをより受け入れやすくなるのです」と、渡辺先生は指摘する。
『大学入試問題研究』を通して得た知見は、新たな取り組みにつながっている。同校では毎年、1年生を対象に1泊2日の東京大見学を行う。07年度は駒場祭に参加した日の夜、宿舎で生徒全員に東京大入試の英語問題に挑戦させた。
「各班に同じ問題を出して、どの班が早く解けるかを競わせたところ、生徒は発奮して熱心に取り組んでいました。1年生でも解ける問題を選んでいますが、生徒にとって、東京大の問題が解けたこと自体が大きな自信につながったようです」(渡辺先生)
これは見学会出発直前に思いついた企画だというが、即実行に移せたのは毎年、入試問題研究に取り組んでいたからにほかならない。 |