私が植物細胞培養の研究を始めたときは、日本の研究者は10人足らずでした。試験管レベルで細々とやっていて、「それで何ができるのか」とよく言われたものです。私は、資源の乏しい日本では、農学の植物生産への貢献が重要と考え、研究を続けてきました。
枯渇の恐れがある特定の植物から医薬品などに使われる有用物質を効率よく生産したいと考えたのは、その代表例です。特定の物質をつくり出す機能がある植物培養細胞を根気よく選別することで、有用物質を大量生産する基盤を確立。胃腸薬に使われるベルベリン、神経の鎮静作用をもつスコポラミンなどの有用アルカロイド物質の工業生産化につながり、世界に先駆けて有用物質生産の植物バイオテクノロジーを成立させたのです。これはイネの個体再生時と同様、明確な目標を持ち、粘り強く努力を続けた結果だと思います。
人間である限り失敗や挫折はあるでしょう。しかし、そのときいかに立ち上がるかで、その人間の価値が決まるのです。私はどんなに困難な環境にあっても、自分のやりたいことを見いだし努力すれば道は切り開かれるということを、人生を通して学びました。
高校生には、まず自己をしっかり確立してほしいと思います。成績が良いから医学部に行こうとか、成績だけで自分の進路を決めず、自分で目標を見つけてほしい。強い意思と地道な努力があれば、たとえ挫折しても、きっと目標達成への扉が開かれると思います。
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