指導変革の軌跡 三重県立川越高校「自立した学習者を育てる」
三重県立川越高校

三重県立川越高校

◎国際的な視野に立ち、自主的創造的な精神を身につけた「自立した学習者」(Independent Learner)の育成を目指す。帰国生徒の受け入れ、海外語学研修、中学生スピーチコンテストなど、国際理解教育に力を入れる。2002年度から3年間、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)の指定校。

設立●1986(昭和61)

形態●全日制/普通科・英語科/共学

生徒数(1学年)●約320名

08年度進路実績●国公立大は、筑波大、横浜国立大、金沢大、名古屋大、名古屋工業大、三重大、大阪大、愛知県立大、名古屋市立大など86名が合格。私立大には、青山学院大、上智大、法政大、明治大、早稲田大、南山大、同志社大、立命館大、関西学院大など、延べ699名が合格。

住所●〒510-8566 三重郡川越町大字豊田2302-1

TEL●059-364-5800

WEB PAGE●http://www.
mie-c.ed.jp/hkawag/


森本卓幸

▲三重県立川越高校

森本卓幸

Morimoto Takayuki

教職歴22年。同校に赴任して11年目。進路指導主事。「1日1日を『ド真剣』に生きる生徒を育てたい」

山田秀裕

▲三重県立川越高校

山田秀裕

Yamada Hidehiro

教職歴24年。同校に赴任して7年目。1学年主任。「能力に限界はあっても向上心には限界がないということを伝えたい」

鵜山敦子

▲三重県立川越高校

鵜山敦子

Uyama Atsuko

教職歴19年。同校に赴任して8年目。2学年英語科担任。「国際社会で活躍できる、骨太で視野の広い生徒を育てていきたい」


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指導変革の軌跡103


三重県立川越高校「自立した学習者を育てる」

「受験は団体戦」を不易の目標とし
生徒の変化に応じた指導の再構築を目指す

● 実践のポイント
「生活確認表」で生徒の生活実態を把握し指導に生かす
「総合的な学習の時間」の活動を参加型・発信型にシフト
2、3年次に年2回、短期集中の自主学習期間を設け、
主体的な学習に結び付ける

「手をかける指導」から自立した学習者の育成へ

 三重県立川越高校は、1986年の創立以来、「受験は団体戦」を旗印に、集団指導体制で「過保護なまでに生徒とかかわる指導」を身上としてきた。生徒が朝から夜まで黙々と廊下で自習に取り組む「廊下学習」、夜遅くまで生徒の個別質問に対応する「くっつき学習」、きめ細かい進路ガイダンスや質量共に充実した面談。生徒個人に合わせた「オーダーメイド」ともいえる指導で進学実績を伸ばしてきた。
 そうした同校も、創立から十数年を経た00年前後から、徹底的にかかわるだけでは生徒の伸びに限界があると感じるようになった。新学習指導要領への移行、学校週五日制の導入など教育環境が大きく変わろうとしていた時期でもあった。そうした変化に対応しようと、02年度のSELHi指定を機に「自立した学習者を育てる」を新たなSI(スクール・アイデンティティ)として取り組みを見直した。
 3年間の進路指導を「進路指導プロジェクト」として体系化し、取り組みのねらいと方法を明確化。発達段階に応じた動機付けの手法を取り入れ、教師が一方的に教える指導から、学びをサポートするスタイルへの転換を図った。これらの改革の内容と成果については、小誌04年4月号で紹介し、大きな反響を得た。
 「進路指導プロジェクト」によって指導のねらいや方法が体系化され、担任の力量や経験の差によるぶれは少なくなった。また、生徒の主体性を引き出す学習指導によって自立的な学習に目覚めた生徒が増え、百数十名の国公立大合格者の約3分の1が後期日程で合格するなど、生徒に粘り強さも見られるようになった。手厚い指導という同校の持ち味を生かしつつ、激変期を乗り越えたのである。

進路指導の体系化が教師の活力を奪う

 ところが、こうした成功が逆に「変化に対する柔軟性を失わせた面もある」と、2学年英語科担任の鵜山(うやま)敦子先生は指摘する。
 「新任教師でも進路指導プロジェクトの流れに沿って指導すれば、一定の成果を挙げられます。シラバス通りに指導していれば結果が出るという安心感が、外的な変化への対応を遅らせた面があることは否めません」
 外的な変化とは、相次ぐ大学改革による後期日程の募集人員の削減である。更に、受け身の生徒が増え、自立的な学びに向かわせることが困難になってきた。次第に、生徒の粘り強さを生かした逆転合格の法則が通用しなくなっていったのである。
 「以前は2年生秋の修学旅行が終わると、ほとんどの生徒が自分から受験勉強を始めていました。ところが、今はその時期になっても、教師に頼っていれば何とかなるという意識を捨てきれない生徒が多くいます」と鵜山先生は話す。
 1学年主任の山田秀裕先生は、「いくら進路指導が体系化されても、大切なのは実際の指導場面にどのように落とし込んでいけるかです。私自身、ベテラン教師という『生きた手本』がいて、そのスキルを学ぶことで成長してきたと実感しています。そうした教師個々の成長と現場での実践があって初めて、『進路指導プロジェクト』が生きたノウハウになるのです。改革から数年が経ち、次第に前年度の繰り返しとなるだけで、活力が削がれていったのかもしれません」と話す。


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