未来をつくる大学の研究室 社会心理学

山岸俊男

山岸俊男 教授

やまぎし・としお
一橋大大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。ワシントン大学大学院社会学研究科博士課程修了、Ph.D.取得。
北海道大文学部助教授、ワシントン大学社会学部助教授等を経て、現在、北海道大文学研究科教授。グローバルCOEプログラム「心の社会性に関する教育研究拠点」拠点リーダー。主著に『信頼の構造』(東京大学出版会)、『日本の「安心」は、なぜ消えたのか』(集英社インターナショナル)など。

*プロフィールは取材時(08年3月)のものです

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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未来をつくる大学の研究室 14
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

北海道大大学院 文学研究科 人間システム科学専攻・行動システム科学専修
社会心理学

人間はほかの人々との集団の中で生きている社会的動物である。人間の心を研究するときに「社会」は欠かせず、
また社会の研究をするときには「人」が欠かせない。
その両者をつなぎ、人間の心の社会性について研究しているのが社会心理学だ。

社会心理学って?

「社会」に生きる人間の「心」を解明する

社会心理学は、社会的存在としての人間の心の性質を、実験や調査などによって科学的に解明していく心理学の1分野だ。人間の心そのものに焦点を当てるだけでなく、社会や文化といった人間の心に影響を与える大きな要素にも注目する。心理学によって科学的な心の解明が進んだ今では、身体と同様に、心も進化の過程で獲得されてきた適応のための道具であるという考え方が浸透しつつある。社会心理学は人間の心と社会の性質を正しく理解し、それを社会の制御のために使う方法を生み出そうとしている。


教授が語る

社会に適応して進化した人間の心が持つ
社会性とは何かを追究

山岸俊男 教授

研究テーマ
文化だけでは説明しきれない人間の心の動き

 社会心理学は今では、心理学の1分野と定義されることが多くなりましたが、ほかの心理学の分野と大きな違いがあります。それは、心理学の他分野では「個」の人間が研究対象であるのに対し、社会心理学では「集団」における心理を研究していることです。
 心理学では、人間の脳が「どのように」働いているのかを研究しています。しかし、人間の脳が「なぜ」そのようなことをするのかと考えたとき、「社会」とのつながりを考えることが重要になります。なぜなら、ほかの生物と同じように、人間の脳も進化して今のような形になったからです。つまり、今、私たちの脳で起きている働きは進化の産物なのです。では、脳が進化する際に一番適応しなければならなかった環境は何か。それは「社会」です。人間は元来、社会的動物であり、社会でうまく立ち回って生き残った人たちの子孫が私たちです。脳は社会で生き抜くことができるように私たちを行動させているといえるのです。ですから、心理学であっても「社会」の側面から研究することは重要なのです。
 一方、社会科学(※1)の中でも心理学は必要です。社会科学では、複数の人が集まったときにどういう行動パターンが生まれるのかを調べています。当然、人の心理を知らなければ研究できません。例えば、経済学の中でも心理学は非常に重視されていて、行動経済学(※2)という分野もあります。
 つまり、社会で生きている人の研究には、社会と心理の両面から見ていく必要があり、社会心理学はまさにその研究をしている学問なのです。

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用語解説
※1 社会科学 法律や政治、経済など社会で起きている現象を、観察・分析といった手法を基にして研究する学問分野。
※2 行動経済学 経済活動において、人々の選択、行動やその結果について研究する、経済学の1分野。

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