未来をつくる大学の研究室 社会心理学
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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 私の研究室では、主に二つのテーマを扱っています。
 一つは、「利他行動」についてです。人間には、自分の利益だけではなく、他人の利益を優先させたり、他人に協力したりする性質があります。道徳や倫理は利他行動を発展させたものであり、社会がうまく機能している理由でもあります。では、人間はなぜ利他行動をとるのでしょうか。サルの利他行動についても研究されていますが、肯定と否定の両説があります。ところが、同じ類人猿でも、人間は利他行動を取る動物だとはっきりいえます。つまり、人間はサルにはない何かがある。それを解明することは、社会をよりよくするヒントになるはずです。
 もう一つは、「社会的適応」行動が生み出す社会制度についてです。私たちは、行動や価値観の違いの理由を「文化が違うから」とよく説明します。例えば、日本は集団主義文化(※3)の社会であり、アメリカは個人主義文化(※4)の社会だといわれていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
 それを解明するために、研究室である実験をしました。5本のペンを用意し、そのうち1本を異なる色にしておきます。被験者に「調査協力のお礼として1本差し上げます。好きなペンを選んでください」と言って5本のペンを差し出します。日本人はみんなと一緒が好き、アメリカ人はユニークなのが好きという文化の違いであれば、日本人には数の多い色のペンを選ぶ人が多く、アメリカ人には1本しかないペンを選ぶ人が多い、ということになります。

写真
写真 ペン選択実験で使われたペン。ペンの色(そのもの)が影響を与えないよう、色や形などを慎重に選び、被験者に提示するときには透明なペン立てに入れた

 まず、普通にペンを選んでもらうと、その通りの日米差が見られました。しかし、「あなたは最初に選ぶ人です」と伝えると、アメリカ人も日本人と同じくらいの割合で数の多い色のペンを取り、「あなたは最後の人です」と伝えると、日本人でもアメリカ人と同じくらい、数の少ない色のペンを取るようになります。自分の選択が他人に影響する場合には、アメリカ人も日本人も同じように遠慮をし、最後だから他人に影響しないと思えば遠慮しなくなる、ということで「みんなと一緒が好き」「ユニークなのが好き」という意味での文化の違いはありませんでした。
 このように、人はまわりの評価によって自分の行動を変える動物だといえます。私たちは、その行動規則は何であるのかを解明しようとしているのです。

用語解説
※3 集団主義文化 個人よりも集団に価値を置く、あるいは自分の利害よりも自分の属する集団の利益を優先する価値観・考え方のこと。
※4 個人主義文化 集団よりも個人に価値を置く、あるいは自分の属する集団の利害よりも自分の利害を優先させる価値観・考え方のこと。

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