私の研究室では、主に二つのテーマを扱っています。
一つは、「利他行動」についてです。人間には、自分の利益だけではなく、他人の利益を優先させたり、他人に協力したりする性質があります。道徳や倫理は利他行動を発展させたものであり、社会がうまく機能している理由でもあります。では、人間はなぜ利他行動をとるのでしょうか。サルの利他行動についても研究されていますが、肯定と否定の両説があります。ところが、同じ類人猿でも、人間は利他行動を取る動物だとはっきりいえます。つまり、人間はサルにはない何かがある。それを解明することは、社会をよりよくするヒントになるはずです。
もう一つは、「社会的適応」行動が生み出す社会制度についてです。私たちは、行動や価値観の違いの理由を「文化が違うから」とよく説明します。例えば、日本は集団主義文化(※3)の社会であり、アメリカは個人主義文化(※4)の社会だといわれていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
それを解明するために、研究室である実験をしました。5本のペンを用意し、そのうち1本を異なる色にしておきます。被験者に「調査協力のお礼として1本差し上げます。好きなペンを選んでください」と言って5本のペンを差し出します。日本人はみんなと一緒が好き、アメリカ人はユニークなのが好きという文化の違いであれば、日本人には数の多い色のペンを選ぶ人が多く、アメリカ人には1本しかないペンを選ぶ人が多い、ということになります。 |