未来をつくる大学の研究室 食品衛生学と薬学の融合

木苗直秀

木苗直秀 教授

きなえ・なおひで
静岡薬科大(現・静岡県立大)大学院薬学研究科博士課程修了。静岡薬科大薬学部講師、静岡県立大食品栄養科学部助教授等を経て、現在、静岡県立大理事・副学長、食品栄養科学部・大学院生活健康科学研究科教授、グローバルCOEプログラム拠点リーダー。薬学博士。専攻は食品衛生学。主な著書に『健康と長寿への挑戦~食品栄養科学からのアプローチ~』(編著、南山堂)、『ワサビのすべて~日本古来の香辛料を科学する~』(共著、学会出版センター)などがある。

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未来をつくる大学の研究室 15
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

静岡県立大大学院生活健康科学研究科 食品栄養科学専攻
食品衛生学と薬学の融合

「健康と長寿」は人類の永遠のテーマである。
静岡県立大は、「薬食同源」の思想をベースにこの課題に取り組んでいる。
お茶やワサビなどの地元の産物を生かし、食品を活用した疾病の予防、新薬への応用を目指している。

食品衛生学って?

食べ物の安全性を科学的に追究

食品衛生学は、安全面から食品にアプローチする学問分野だ。輸入食品・加工食品の安全性確保、食品添加物の管理、食中毒の防止、食物アレルギーの予防など、「食の安全」にかかわる知識・技術を学ぶ。サプリメントなどの機能性食品の登場により、薬学的な視点も重視されつつある。静岡県立大では、「薬食同源」の思想を基本として、薬品と食品の融合を図り、薬と食品の相互作用の解明、安全で効果的な薬の開発、植物成分の食品への応用などを研究している。

教授が語る

「薬食同源」を基盤に薬品と食品とを融合させ
健康長寿の実現を目指す

木苗直秀 教授

研究の背景
薬品と食品を融合し安全で使いやすい新しい薬をつくる

  中国には古来より「薬食同源」(※1)という言葉があります。バランスの取れた食事をとれば病気にはならないし、病気になったときは食を正すことが第一の治療となる。それでも治らない場合は、薬草、今でいう漢方薬を使うという発想です。
 私たちの研究は、この「薬食同源」の考え方を共通認識として、健康を保つための食品の活用や、食品と医薬品を組み合わせて新しい薬をつくり出すことなどを目的としています。
 薬の開発には莫大なコストがかかります。新薬をつくるためには100~200億円、期間は10~15年かかるというのが一般的です。しかも、一つの薬をつくるために、何千、何万種類もの化学物質を検討しなければなりません。医薬品の多くは人体にとって異物ですから、副作用などのマイナス面もあります。
 ところが、食品は元々人間が食べてきたものです。抗酸化性、抗発がん性など、病気に対して有効な成分が含まれているものも多くあります。そこで、私たちの大学には食品栄養科学部と薬学部があるという利点を生かし、従来からある薬と食品を組み合わせて、より使いやすく、より低コストな医薬品をつくろうとしています。
 研究で気をつけているのは、地元・静岡県の特産物を生かすことです。気候風土に恵まれた静岡県は海の幸、山の幸が豊富で、生産高日本一のお茶やワサビ、ネーブルオレンジをはじめ、生産高トップ10に入る産物が78品目もあります。そのメリットを生かし、地元の産物を研究に活用しています。ワサビの葉やサクラエビのヒゲなど、今まで廃棄されていた部分の有効な活用法を見つけ、環境問題にも貢献したいと考えています。

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用語解説
※1 薬食同源 中国の周の時代に生まれた考え方で、正しい食が健康の維持増進につながるという思想に基づく。

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