子どものころには、将来、自分が法律学者となり、裁判員制度などの司法改革にかかわるとは夢にも思いませんでした。10代といえばその未来は、真っ白な状態で、可能性に満ちています。その可能性を更に広げるために、是非取り組んでほしいのが読書です。
ただ、本に書いてあることがすべてだと受け止めてはいけません。孟子の言葉に「尽(ことごと)く書を信ずれば即ち書無きに如(し)かず」という一文があります。私の恩師である東京大法学部の平野龍一先生はこの言葉になぞらえて「尽く師を信ずれば師無きに如(し)かず」と私たちによく言われました。「本に書いてあることや先生の言うことだけを信じるくらいなら、本を読んだり、先生に教わったりしないほうがいい」という意味です。平野先生は、師の説から離れることに寛容であり、自分の考えを持つことの大切さを説いてくれました。私が発表した「精密司法」という考えは、先生のお考えとは異なるものでしたが、先生は私の主張を一度も否定しませんでした。もちろん、学問において新しい発見や新しい理論を創造することは、容易なことではありません。20年、30年かかるかもしれません。しかし、じっくりと対象を見つめるからこそ、明らかになることがあるのです。80歳を過ぎてもなお、私が研究者でいるのは、まだまだ見えてくるものがあるからです。だからこそ、学問は面白いのだと思います。
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