教える現場 育てる言葉
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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造船は林業と同じ。今やったことの結果は30年後に出る。

  技能塾創設の一方で、技能塾の講師となる高度な技術を持つベテラン社員に向けた制度も設立された。一つは「範師制度」。現場では言わば〝神様的存在〟ともいえる卓越した技能を持つ社員に「範師」という称号を与え、社員の模範とするシステムだ。人格、技能、指導力といった総合的な能力を持つ者を、現場の意見を集約して人事部が認定する。もう一つは、定年退職後の再雇用。熟練技術者に「シニアエキスパート」として残ってもらい、現場での指導に当たってもらおうというものだ。
 村上さんはその1人。約10万点もの部品からなる全長200メートルもの船を、狂いなく組み上げる「船殻」のプロだ。3年前に定年退職した後も、現場の先頭に立ってアドバイスをするのはもちろん、後進の指導に当たる熟練社員たちと共に「教え方」についても研究を重ねる日々だ。
 「今やっていることだけでなく、その先の工程を見越して作業ができるよう、全体の流れを教えるよう心掛けています。ただ一方で、今の若い人はすぐ『全体の流れを見んと分からん』なんていうけど、『流れは自分でつくるんや』ということも知ってもらいたい。指導する上で大切なのは、教える相手の性格をまず知ることですね。『この人は頭ごなしに怒っちゃいけん』とか『この人は理屈で説明せんとだめだ』とか、教える相手によって教え方も変えないと。でも、これは特別なことじゃなくて、人づきあいの基本かも知れません」(村上さん)
 こうしてさまざまな取り組みが始まり、現場の雰囲気、技能伝承に対する意識も大きく変わりつつある。
 「成果が実を結ぶまでには、まだまだ時間がかかります。私は、造船業は林業だと思っているんです。今、植えた苗が大木に育つには30年かかります。すぐに結果が出ないからといって、やめてしまっては、30年後の会社の存続にかかわります。今は何でもスピードが求められる時代ですが、我々造船に携わるものは、長いスパンでものを考えなくてはならない。そういう思いも、若い世代に伝えていきたいと思っています」(谷内さん)
写真
引き渡し直前の船

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