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熟練技能者がマン・ツー・マンで教える試み「技能塾」
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そんな声を生かして、同社がスタートさせた取り組みの一つが「技能塾」と呼ばれる育成システム。入社3~8年目の若手技能者と、ベテランの熟練技能者を一定期間、生産ラインから離し、マン・ツー・マンで基礎技能を教え込もうというものだ。習熟の度合によって、社内資格も取得できる。
「生産ラインから一時的に戦力が抜けるわけですから、社としては大きな投資です。でも、今それをやらないと、この会社の10年後はないと思っていますから、決して無駄にはならないはずです」(谷内さん)
「今は、金属を加工するときもNC機と呼ばれるコンピュータ化された工作機械で簡単にできますが、技能塾ではあえて旋盤などを使って手づくりでするんですよ。一から自分の手でつくると、そのモノ本来の原理や仕組みが分かりますし、愛着もわきますからね」(村上さん)
実際に、技能塾の現場へ行ってみると、生産ラインのすぐ横に設けられたスペースで、20歳の若手技能社員が一心不乱にパイプの溶接に取り組んでいた。脇で見守るのは、この道35年のベテラン、松本告行さんだ。「教え方といっても、特にはなぁ。でも、目の前で私がやってみせるからね。自然に見て覚えてもらうのが一番」。松本さん自身、先輩の姿を日々直に見つめることで技能を体得してきた。
「1対1で教えてもらえるのは、すごく勉強になります。現場の作業のベースとなる基本的な技術なので、覚えたことを早く現場で生かしたい。僕がいくらやってもできないことを、松本さんは目の前であっという間にやってしまう。本当にすごいなあ、と実感しています」と語るのは、技能塾塾生の大田昌幸さんだ。
まだ始まったばかりの技能塾だが、若手社員の間でも好評だ。受講者の人選は、基本的に現場を見ている作業長が行うが、自ら参加を希望する者も多い。
「もともと、モノづくりがしたくて入社してくれた若者たちですからね。地元にそういう若者を増やすことも、技能伝承における大切なポイントだと思っています」(谷内さん)
以前は親子2代、ときには3代にわたって、文字通り「親父の背中を見て」この造船所にやってくる地元の若者も少なくなかった。谷内さん曰く、「今までは求人票さえ出せば、必ず希望者が集まってきました。でも、近年、九州北部に自動車産業が進出してきたこともあり、工業分野で学んだ若者の誰もが造船を希望してくれるというわけではなくなってきました。船というスケールの大きなものをつくる仕事ならではの魅力を地元の若者に訴えていくことは、今後の課題の一つです」。
同造船所では、進水式に児童や生徒を招いたり、工場見学会の開催や、地元の工業高校のインターンシップを受け入れるなど、「働く姿」「モノづくりの現場」を若者に見せる努力を続けている。 |
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取材した日の技能塾では松本さん(右)から大田さんへ
パイプの溶接技術の指導が行われていた |
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