10代のための「学び」考

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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大切にしたいのは感性と地道な努力

 私が特に興味を持ったのはサンスクリット語の語彙の広がりです。この言語は語彙が極めて豊富で、一つの事柄を表すのに多様な語彙があります。例えば「太陽」を表すのに「万物を育むもの」「人の行いを監視しているもの」など108の語彙があります。また、一つの語彙が同時にたくさんの意味を持っています。私はインドの二大叙事詩の「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」に出てくるtapas(苦行)という語を全部集めて整理してみました。すると古代インドの苦行の目的や実態が明らかになってきました。
 私は生来鈍感で人より理解が遅かったので、人一倍じっくり時間をかけて原典を読む必要がありました。丁寧に取り組んだからこそ、他人の気づかない事に疑問を持つことが出来たのです。また、途中で頭が混乱してしまうので出合った語彙を一つずつカードにまとめました。このカードは40年で30万枚にも達しましたが、論文に利用したのはその中の20分の1にも及びません。思えば能率の悪い作業の連続ですが、こうした気の遠くなるような作業を積み重ねることが出来たのは、常に好奇心と根気を失わなかったからでした。
 これまでの経験を通して伝えたいことは、第一に国語を大事にすることです。国語を大事にしない人は外国語も粗末にします。第二になるべく一流の芸術品に接して常に「本物」への感動を大事にし、研究に精進することです。対象に体当たりして問題の所在を見つけるには「理性」よりも「感性」の方が大事ではないかと思うことがあります。そして第三に「一期一会の縁」、人との出会いを大事にして、常に相手から学ぶ姿勢を忘れないことです。これまで私が壁にぶつかりながらも何とか勉強を続けられたのは、良き師友に恵まれていたからです。

◎本コーナーに登場する研究者は、日本学士院の会員の方々です。日本学士院は、学術上功績のあった科学者を優遇するための機関で、人文科学70名、自然科学80名が在籍し、新会員の選定、公開講演会等などの活動を行っています。会員に選定されることは研究者として名誉とされ、また日本学士院賞は国内の学界では最も権威ある賞として、毎年初夏に行われる授賞式には天皇皇后両陛下がご臨席されます。
・日本学士院URL:http://www.japan-acad.go.jp/


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