10代のための「学び」考
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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人生を変えた師との出会い

 インド学を学ぶ中で素晴しい先生方と出会いました。大学3年間で中村元先生から基礎を叩きこまれ、旧制大学院では辻直四郎先生から学問の方法論を学びました。そして偉大な学者は自分の「学問の型」を持っているということを知りました。2年後に私はハーバード大学に留学しました。大学図書館には貴重な研究書や雑誌が整備されていましたので、毎日図書館に通って研究書や論文の文献目録を作ることにしました。
 ところが、留学2年目に自分の学問を全面的に否定される出来事が起こりました。「直ちに目録作りを止めよ。他人の研究書を読む前に、原典に体当たりして自分の解釈を持て」と直属の研究室のインゴールズ先生にひどく叱られたのです。
 それまでの私は西洋の一流の学問を日本に紹介すればよいと思っていました。日本ではインドや西洋の学者に肩を並べ研究を発表することなど、要求されていない。およそ自分には出来ないことと思っていたので、どうしたらよいのか全く途方に暮れてしまいました。思い余って私は日本学教授であったセルゲイ・エリセフ先生に相談に行きました。「先生は日本人ではないのに、どうして日本研究をしているのですか」と。すると先生は「私は産婦人科の医者のつもりでいる。産婦人科は自分が女性でないのに、女性以上に女性のことを知っている。外国人だからこそ日本人の気がつかない問題点を見つけることが出来るのだ。努力すれば必ず道は開ける」と励まして下さったのです。私には「世界で自分しかできない研究」が要求されているのだと、身の引き締まる思いでした。今思うと、老先生がよくも25歳の青二才を相手にして下さったものと、感謝の念で一杯です。
 「やるからには本格的な研究をせよ」と教えて下さり、自信を失った私の背中を押して下さったこの2人の先生との出会いが、私の学問への姿勢を180度転換させ、新しい自分に「脱皮」させたのです。


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