多くの有機材料は弱く結合した分子の集団です。結合が弱いと、個々の分子の性質と集団としての性質が表れ、面白い特性を発揮します。個性のある人たちが協力して大きな力を発揮するのに似ています。
その特性は分子中の電子の動きで決まります。私たちの研究は、ナノレベルで電子の性質を解析し、有機材料の性質を解明することです。電子が分子間を移動する間に、どう影響し合うか、電子はどのくらいの速さで移動するのかを、光電子分光装置(※6)などの計測機器を使って観測します。これらはバイオ機能の解明の出発点になるとも考えられています。
03年度に「超高性能有機ソフトデバイスフロンティア」として21世紀COEプログラムに採択され、5年間研究を続けてきました。重要な発見がいくつかありましたが、中でも衝撃的だったのは、電子の抜け殻であるホール(※7)という物質と、振動している分子が結合している状態を、世界で初めて確認したことです。有機材料中の分子と電子の動きは複雑で計測が難しく、多くの研究者が観察は不可能と考えていました。
成功要因の一つは、助手や学生らが精密に実験データを積み上げ、その実験データを見たとき、微妙な違いを見逃さなかったことにあります。実験途中に報告を受けたとき、データは分子とホールの結合を示していませんでした。しかし、いつもとは少し違うデータが出たため、もう少し研究を進めたら、結合の様子を確認できるかもしれないと考え、更に精密な実験を重ねたのです。
振り返ると、実験の積み重ねによってデータを見る目が養われていたこと、日々頭の中で理論を構築し、チームメイトとさまざまな可能性を語り合ったことが大きかったと思います。諦めずに粘り強く追究する姿勢と研究室のチームワークが、画期的な成果を生み出したのです。 |