VIEW'S REPORT
佐藤 学

▲東京大大学院教授

佐藤 学

東京大大学院教育学研究科修了。教育学博士。専門は教育学、教育方法論。日本教育学会会長。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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高校での「学びの共同体」の意義

真摯に学び合う生徒の姿が
教師のやる気に火をつける

「学びの共同体」の成果が出てきた

 「学びの共同体」の取り組みを始めてから12年ほどが経ちました。現在、全国の国公立小・中学校の約1割が導入しています。
 ある程度想像はしていましたが、これほどの成果が表れるとは考えていませんでした。荒れた学校でも「学びの共同体」を始めると、子どもの問題行動はうそのように減り、不登校者の7~8割は学校に来るようになりました。学力も向上しましたが、私が最も嬉しく感じるのは、子どもの学び合う姿がとても素敵なことです。子ども同士が助け合いながら真摯に学びに向き合っているのです。
 高校でも4年ほど前から「学びの共同体」に取り組む学校が出てきました。導入効果は大きく、1学年の半数以上いた中退者が1桁にまで減った高校もあります。高校での導入校は急速に増え、今では週に2、3校から講演依頼や導入の相談があります。08年に東京大教育学部附属中等教育学校で行った公開授業には、800人以上の高校関係者が集まりました。進路多様校だけでなく、進学校でも一斉授業が成立しづらいという現実があると思います。

授業研究を学校経営の柱に

 「学びの共同体」のコンセプトは、子どもの学ぶ権利を保障すること、授業を見せ合うことで教師同士も学び合いながら成長を促すことにあります。つまり、授業研究や校内研修を学校経営の中心に据えるです。
 授業研究を日常的に行う小・中学校に比べ、自身の授業をほかの先生に公開する機会が少ない高校では導入しづらい面があります。旧態依然とした授業に疑問を感じても、学校全体の授業改革につなげる機運が生まれにくい土壌があると思います。
 しかし、「学びの共同体」の授業研究では「教え方が良かった・悪かった」とは問いません。「どこで生徒がつまずいたのか・支え合っていたのか」などを検証します。「教師」の視点ではなく、「生徒の学び」という視点から検証するのです。この方法は高校にも受け入れられやすいのではないでしょうか。
 高校は教える内容が多く、大学受験も控えているため、授業進度の遅れを気にする先生もいますが、授業の構成を変えれば解決できます。今の授業に「学び合い」をプラスしたら時間は足りません。基本語句や公式などの要点をまとめた教材を配り、教えたいことは前半30分を使ってグループでまとめさせ、残りの20分でより発展的な課題に挑戦させるのです。

学び合う生徒の姿が教師の励みに

 高校での実施が、小・中学校に比べて有利な面があります。高校生だけあって、のみ込みが早く、すぐに授業のねらいをつかんでくれることです。これは、進学校の生徒でも、生徒指導が難しい学校の生徒でも同じです。生徒は謙虚に学び合い、困っている生徒をしっかり支えています。「学び合い」をあと押しするのは、だれよりも生徒自身なのです。
 生徒が夢中で課題に取り組むため、教師も自ずと指導に熱が入るようになります。これも大きな利点です。現在のご自分の授業に疑問を感じているならば、是非、「学びの共同体」の授業を見学してほしいと思います。そして、実践してみてください。すぐに生徒の変化が見えるはずです。
 すべての先生がよい授業、生徒の心に響く授業をしたいと考えています。教師だけで変えようとするのではなく、生徒と共に学び合い、一緒に授業をつくっていくという気持ちで取り組んでいただきたいと思います。


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