水谷徳子さん
Mizutani Noriko
大阪大社会経済研究所特任研究員
〈富山県立高岡高校卒業〉
PAGE 5/5
大学院生が語る
男女間の意識の差を
労働の効率化に役立てる
Q:なぜ経済学分野を目指したのですか
A:
高校時代は理数科に在籍していました。進学先やその先の就職を踏まえ、進路を決める時になって、理学部や工学部で学ぶ自分が想像できないことに気付きました。かといって、人文科学にも関心が向かわず、悩んだ末、名古屋大経済学部への進学を決めました。数学というツールを使い、社会や経済の現象を説明する学問が自分に合っているかもしれないと考えたのです。
3年生の時に経済学についてまだ学び足りないと感じ、大学院進学を決意しました。学部では理論的な研究が中心だったので、実証研究をしたいと考え、カリキュラムが充実している大阪大大学院に進みました。
Q:現在の研究内容を 教えてください
A:
実験結果から得られた統計を基に、男女間で競争への選好がどのように異なるのかを調べています。実験方法は、被験者にコンピューター画面に次々に現れる計算問題を解いてもらいます。報酬体系として、歩合制(1問ごとに報酬を設定)かトーナメント制(グループ中1位の人が報酬をもらえる)かを選択させ、どのように労働(計算)の効率が変わるかを測定しました。
その結果、女性よりも男性の方がトーナメント制を選ぶ率が高く、より競争的な環境を選択する傾向が強いこと、男性が競争的環境を好むのは自信過剰によることなどが明らかになりました。また、さまざまな男女比でグループ作業を行ってもらい、男女の意識の差を調べたところ、男性はグループ内が全員同性であると最も自信がなくなるのに対して、女性はグループ内がすべて同性であると最も自信過剰になることが明らかになりました。
この実験により、人事マネジメントの分野などへ労働の成果を高めるための理想的な男女比や、報酬体系を決める際の基礎的な資料を提供できると考えています。
Q:高校生へのメッセージをお願いします
A:
行動経済学を学んで感じたのは、高校時代に抱いていた「経済学」のイメージとは掛け離れていたことです。私の研究には、経済学や数学だけでなく、心理学や社会学などの幅広い知識、歴史や社会情勢などの教養も欠かせません。
今回初めて、被験者を集め、パソコンなどを用いて行動パターンを分析する経済実験を行いました。従来の経済学では、数学モデルを使った理論の証明と、統計を用いた実証研究が主な研究手法であり、私が行ったような経済実験は、行動経済学の発展に伴い活発になった手法です。私自身も大学院時代までは、官公庁などが公表したデータを用いた実証研究しか行っていませんでした。そのため、人を集めたり被験者の報酬を用意したりといった事務的な手続きの経験がなく、思いのほか苦労しました。チームワークやコミュニケーション能力、データと向き合うための忍耐力も必要だとつくづく感じました。
行動経済学は、高校時代のあらゆる体験が生かせる分野です。偏りなく学習に取り組み、部活動や学校行事などにも悔いが残らないような高校時代を送ってください。それが、将来の大学での学びを充実したものにしてくれるはずです。
PAGE 5/5