未来をつくる大学の研究室 鳥取という地の利を生かし「人の役に立つ」乾燥地研究に挑む
佐藤敏雄

佐藤敏雄さん

Sato Toshio
鳥取大大学院農学研究科土壌学分野修士課程2年
〈神奈川県立舞岡高校卒業〉

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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大学院生が語る

汚れた都市下水の灌漑への利用法を追究

Q:なぜこの分野に進んだのですか

A:高校2年生の冬ごろ、アルバイト先での雑談の中で、先輩から「海外の砂漠で植林活動をしている日本人がいる」という話を聞きました。その話にロマンを感じたのが乾燥地に興味を持ったきっかけです。砂漠化について調べ始めたところ、日本では鳥取大が乾燥地研究に強いことを知りました。
 当時、出身高校の卒業生の進路は、大学、専門学校、就職がそれぞれ3分の1ずつ。また、私は高1からアルバイトをしていて、学習時間は決して十分とは言えませんでした。それでも、鳥取大農学部を目標にして、高3の4月から一気に勉強しました。高1の内容を復習し直すことから始めましたが、目標があったからこそ頑張れたのだと思います。

Q:現在の研究内容を 教えてください

A: 私は恒川先生の研究室に籍を置いていませんが、グローバルCOE拠点で一緒に研究を進めています。その中でも、土壌学を専門としています。2年生の時に行ったメキシコで、土壌の大切さを痛感したことがきっかけとなりました。
 2008年12月から10か月間、若手研究者を海外に派遣する制度を利用し、シリア第二の都市アレッポにある「国際乾燥地農業研究センター(※4)」で研究に取り組みました。乾燥地で人口が増加すると水が足りなくなり、生活排水や工業排水といった都市下水を灌漑用に使わざるを得なくなります。しかし、多くの発展途上国には、日本のような設備の整った下水処理場がありません。カドミウムや銅、ニッケル、亜鉛などの重金属が含まれたままの水をそのまま使っているのです。
 私は、40~50年間もそうした水を使い続けている地域の30キロ圏内を対象として調べました。水には汚臭と濁りがあるため、地元の人たちも危険な水を使っているという認識があります。それでもその水を使って収穫量を上げた方が収入を多く得られるため、自分が病気になったとしても薬を買って治した方が安くつくと考えています。
 そこで、長期利用によってどのような害があるのか、それを防ぐにはどうしたらいいのかを研究しました。例えば、土壌サンプルを採取し、重金属などを測定しました。
 問題解決の方法には、植物の特性の違いを利用して、重金属を吸いにくい植物を植える方法が考えられます。もしくは、水は農地に均等に広がるわけではないため、汚染された場所の農作物は食用以外に、汚染されていない場所の農作物は食用にと使い分ける方法も考えられます。
 同じような問題を抱えている乾燥地は、世界中にたくさんあります。将来の目標は、現地の人々と直接かかわるような研究をすることです。研究で人の役に立ちたいという気持ちもありますが、現場で汗を流す仕事に関心が高いからです。

Q:高校生へのメッセージをお願いします

A:「百聞は一見に如かず」といいますが、私の先生が言っていたのは「百見は一触に如かず」。百回見ても、一度触ってみなければどういうものか分かりません。自分が興味を持ったことには、まず挑戦することが大事だと思います。
図
用語解説
※4 国際乾燥地農業研究センター 日本、アメリカ、イギリスなど47か国と、世界銀行などの17の機関が参加する「国際農業研究協議グループ」傘下の15研究機関の一つ。乾燥地研究の分野では世界的に知られている。

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