2002年、本研究所は32年の歳月をかけて、それまで不可能といわれていたクロマグロ(※1)の完全養殖に世界で初めて成功しました。完全養殖とは、人工ふ化から育てた成魚が産卵し、更にその卵を人工ふ化させて成魚にまで育て、その成魚がまた卵を産むという一つのサイクルを完成させることです。
水産養殖の研究分野は、採卵や種苗(しゅびょう)量産技術、養成技術などの確立、汚染・環境負荷の構造の解明、鮮度保持や加工法の改善、安全性の確認、流通など多岐に渡ります。その中で、私は「魚の飼料」について研究しています。飼料開発に当たっては、魚類の味覚や臭覚、消化吸収の機能、各栄養素の要求量と代謝について明らかにする必要があります。また、養殖産業の発展を考えると、価格を考慮することも重要な課題です。
これまで、魚の養殖には生き餌が多く用いられてきました。しかし、生き餌に含まれる栄養素が海水に溶け出し、赤潮(※2)を引き起こすことが問題視されていました。そこで、栄養素の流出が少なく、栄養バランスにも優れた人工配合飼料が注目されるようになったのです。配合飼料には、イワシ類、アジ類、サバ類などを乾燥させて粉末にした魚粉が多く用いられます。しかし、これでは魚に魚を与えることになるため、結果的に魚資源の減少につながります。魚粉に代わる安価な動物・植物・微生物タンパク質源を利用した配合飼料の開発が必要とされたのです。
日本は、世界で漁獲されるクロマグロの8割を消費しています。マグロ類の漁獲規制(※2)が世界規模で行われている今、クロマグロの養殖技術を発達させ、養殖産業の発展につなげることは、日本の責任ともいえます。また、これは天然のクロマグロの保護にもつながるのです。
養殖技術の向上には、配合飼料の開発が一つの鍵になります。また、養殖経費の半分を飼料代が占めるため、配合飼料の低廉化が実現すれば、最終的に高級クロマグロを安く賞味出来るようになるのです。 |