「コマシラバス」を核にした学力向上の取り組み |
少人数・習熟度別学習による「基本コース」と「発展コース」の授業で身につけた力を、「さよならタイム」、「チャレンジタイム」で定着させる。そのために基礎・基本定着プリントや発展問題プリントなど、オリジナル教材を数多く用意し、使い分けていく。…神辺小の特色は、こうした多様な取り組みが拡散することなく、日々の授業につながっていること。その背景となっているのが、「コマシラバス」である。
「コマシラバス」は、授業1時間ごとの評価規準表で、記述内容は非常に具体的だ(図5)。 |
▲図5 授業1時間ごとの評価規準表である「コマシラバス」
|
|
子どもたちに示す課題や評価のためのプリントの問題は、「コマシラバス」から選んで使うことができるようになっている。先生方は、それらに具体的な教材を準備するなどの独自の工夫を追加して授業を組み立てていく。
多くの学校でつくったまま職員室の戸棚に眠っている評価規準表は、ここでは毎日の授業の出発点となり、授業を改善する原動力となっている。
神辺小学校ではこのしくみを「神小学力定着サイクル」(図6)と名づけ、学校の活動全体を成長させる基盤として定着させようとしている。 |
|
考える力への危機感 |
同校は32年間公開研究会を継続し、この数年間は主に社会科や生活科、「総合的な学習の時間」などで、問題解決型の授業研究を行ってきた。「そのなかで、子どもたちが課題づくりや自分で調べる力、まとめる力を身につけた実感はありました」と教務主任で5、6年の少人数指導も担当する藤井博敏先生は振り返る。
「その半面、友だちの発表した内容を受けて考える力、疑問を感じる力が弱いという課題がありました。また、学年が上がるほど学力定着率が下がる傾向が目立ってきました」(藤井先生)
前提となる基礎学力が身についていなければ、問題解決型の授業の成果も望めない。そんな危機感から同校の実践はスタートした。
2001年度、広島県の基礎学力定着研究校の指定を受けて、「保護者の期待に応えるためにも、まず最初に力を入れるべき教科を算数にしぼりました」と高橋史恵校長は語る。高橋校長はまず教務主任をはじめとした校内で推進役となる先生方とビジョンを共有し、その内容を学年主任を通して各学年へと広げていった。
最初に取り組んだのは、再三紹介している「基礎・基本定着プリント」作りだ。
「最初は本当にできるのか、という声もありましたが、みんなで分担することで全学年分をいっきに作ることができました」(藤井先生)
できあがったプリントは、職員室前の棚に置いた。そのうえで、週に1時間、このプリントだけに取り組む「ドリルタイム」と、週3回下校前に1日1枚取り組む「さよなら学習会」を始めたのである。
基礎・基本定着プリント作りやコマシラバス作りのための時間は、職員会議をなくし、代表会議に替えることで捻出した。
さらに、個人差が大きい5、6年生で、算数の全授業を等質集団での少人数指導にする一方、さよなら学習会を基礎・基本と応用の2コースに分けて取り組むなど、習熟度別についての試行も始めた。そして3学期にはコマシラバスをいっきにつくり上げた。つまり、現在の算数の取り組みへの布石は、最初の1年で終わっていたことがわかる。 |
結果をもとに取り組みの見直しを続ける |
そして迎えた2002年の6月。新教育課程導入後はじめての広島県「基礎・基本定着状況調査」で、同校の算数の成績は全県平均を下回り、とくに「思考・判断」の力が弱いことがわかった。しかし、同校では、2002年度から、思考・判断の力が弱いことを認識したうえで、少人数指導を子ども自身がコースを選択する習熟度別学習に移行するなど、基礎・基本として「考える力」を伸ばす授業づくりがすでに始まっていた。そしてその成果が、2003年度の調査では着実に表れてきている。
「32年前の第1回研究会の資料を見直したら、テーマはまさに基礎・基本でした。もともとこの学校にあったものだったんです」と言う高橋校長の言葉には気負いはない。
「派手な変革をしようとは思いません。たった1輪ずつでも、すべての教室に花があれば、学校の雰囲気は変わります。そんな場づくりを大切にしたいのです」(高橋校長)
32年間受け継いできた伝統とは、年々成長を続ける学校の姿なのかもしれない。 |