ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
二学期制

石川県金沢市立
明成小学校
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市の拠点校としていち早く名乗り
 金沢市教委が二学期制の全校実施を決めたのは、2001年度末。有識者などからなる「金沢市21世紀教育懇話会」が2000年12月の提言で、長期休業期間や学期のあり方の見直しなど、「ゆとりある学習期間の設定」を求めたことに対応したものだった。
 あえて二学期制の全校実施という形を取ったことについて、市教委学校指導課では、「主として学力向上をねらった」(山本秀紀指導主事)と意図を説明する。
 しかし、二学期制の実施に当たっては、学校、保護者ともに不安が少なくない。そこで、2002年度から小学校2校、中学校2校をモデル校に指定して、先行研究を行うことにした(03年度は試行も含めて小学校14校、中学校13校が実施)。
 児童科学教室や通級指導教室など「いろいろな意味で市の拠点校」(浅岡吉宏校長)である明成小では、2002年1月に市の校長会を通してモデル校指定が提案されるとすぐ、学校に持ち帰って検討。それまで同校が追求してきた「自力解決力」の育成にマッチする、との見解で一致し、最終的には校長の判断で指定を受けることに決めた。
写真1 オープンスペースのある教室
▲写真1 統合2年目の1997年に新築された校舎は各学年にオープンスペースを有する。教室と教室の壁も取り払えるので、学年のさまざまな学習に広く使え、非常にゆとりがある

 2月半ばの内定から実施まで2か月足らずという短さもあって、新学期の授業開始を従来の4月5日から8日に延ばすことを決定。これによって十分な会議の時間が保障され、特別な支援を必要とする児童の共通理解も含めて、ゆとりを持って対応することができたという。
 さらに、いち早く2002年度から全校実施を決めていた仙台市の例に倣って、夏休みを従来よりも短い7月21日から8月27日までの38日間と設定。前期終了後の秋休みは、体育の日を含めた三連休に夏休みを短縮した2日分を加え、10月10日~14日の5日間とした。
忙しかった7・12月に落ち着いた指導が可能に
 二学期制で授業時数が増えるといっても、小学校の場合は、期末試験に多くの時間を割く中学校ほど劇的に増えるわけではない。明成小の場合もせいぜい10~20時間。それでも、増えた時間は理科や算数の発展的・補充的な学習に充てることが可能になった。量的にもゆとりが生み出されたことは確かだ。
 しかし、それよりも大きいのは、質的なゆとりが生み出されたことだという。
 三学期制の7月、12月といえば、季節を意識した学習や学校行事が目白押しの一方で、通知表のための成績処理作業も必要。児童、教師ともに忙しい時期だ。
 それが二学期制では、通知表を渡すのは10月と3月。作業は長期休業中に進めておけばよい。その分、忙しかったはずの7月と12月は、創意工夫を生かした「総合的な学習の時間」や基礎・基本の徹底など、教師が落ち着いて指導に当たれる時期になった。浅岡校長は、「量的な面でも質的な面でも、二学期制はゆとりとの相性がいい」と指摘する。
 さらに、児童にとっても大きな効果がある。
 三学期制なら、7月に通知表が渡されて授業が終わり、そこで学習が一段落してしまう。しかし二学期制なら、7月までの学習課題を持って夏休みの勉強に臨み、9月からの学習につなぐことができる効果がある。冬休みも同様だ。
 こうした「学びの連続性」は、生涯にわたって学ぶ基礎・基本ともなるもので、自己表現につながる要素を持っていると指摘する。
「ミニ通知表」から「ホット通信」へ
 そんな長期休業を有意義なものにするため、7月と12月の各3日間、放課後を使って、保護者を交えた個人面談を行っている。それまでの学習や生活の状況を話し合うことで、休業中の過ごし方の目当てを児童、保護者、教師の三者で共有することをねらっている。
 面談の素材として昨年度、通知表の代わりに作成したのが、「ミニ通知表」。各教科の単元ごとに学習を振り返るため、観点別の評価を3段階(十分満足/おおむね満足/努力を要する)で記したものだ。
 休み前の面談は、「子どものようすがよくわかった」「先生とじっくり話ができた」と好評だ。ただし、教師にとってはミニ通知表の作成作業が負担になるという難点があった。
 そのため2年目の今年度は、ミニ通知表に代えて、レポートや作品のポートフォリオのほか、「ホット通信」(図1)を活用することにした。
図1 ホット通信
▲図1 2003年度、ミニ通知表の代わりに作成した「ホット通信」。レポートや作品なども合わせ、その子の活動のようすが具体的に見えてくる

 ホット通信は国語、算数、理科のうちから担任が2教科を選び、ある単元について児童に成長した点を自己評価させたうえで、担任がコメントを加えるもの。教師にとっては、その子のよい部分を評価するねらいがある。子どもの自己評価力を高めるためには、その単元で学習したことを振り返らせる「学びカード」(図2)を記入させている。
図2 学びカード
▲図2 単元ごとに学習内容を振り返り、子どもが自己評価を行う「学びカード」

 長期休業中は、午前中を「学習相談日」とし、ライブラリーセンターやマルチメディアルームを子どもに開放するとともに、個々の課題や自由研究の相談に乗っている。
 さらに、前期の通知表を渡す10月にも、従来通り個人面談を行う。長期休業前と合わせて年3回の面談があることになり、保護者との関係づくりでも二学期制のゆとりが役立っている。
 実施してみないとわからない点もある。初年度は日数調整のために夏休み後の授業開始日を8月28日としたが、参考にした仙台とは違って金沢の夏は暑い。8月28~30日の最高気温の平均を取ってみると、34度にもなった。
 そこで2年目の今年度は、8月いっぱいを休みにした。その代わりに秋休みは10月の三連休だけにし、冬休みを1日短縮。そうすることで学習にとってもよい気候の秋に、たっぷり授業を行うことができるという。
 「地域の特性に合わせた二学期制の設定が必要ですね」と浅岡校長は提案する。
柔軟な発想を引き出し質的変化をもたらす効果
 二学期制への移行が、これまで三学期制のなかで実施してきた授業計画を見直す契機になったのはいうまでもない。さらに、面談の回数が増えたことも加わって、「年間を通して指導と評価が連続して行えるようになってきた」と校長は成果を強調する。
 学校行事はできるだけ減らさない方針を採っているが、実施時期は若干見直した。年間を通じてゆとりある学校生活が送れるようにしたり、長期休業との連続性を持たせたりできるようにするためだ。
 今年度はさらに学力向上策として毎日15分間、「マリリンタイム」(マリリンは学校で飼っている犬の名前)を設定。英語活動のほか読書、漢字、計算など基礎・基本の徹底などに活用している。
 二学期制を基にした学校運営について、浅岡校長は、「これまで何十年もやってきたことを変えるのですから、定着までに少なくとも2、3年はかかるでしょう」と注意を促す。そのうえで、これから導入を検討しようとする学校には、次のようにアドバイスする。
 「二学期制は、あくまでも形。それをどう質に転化するかが、いちばん大事なことです。これまで当たり前のように行ってきたことを、一つひとつ見直す必要が出てきます。しかし、そうした柔軟な発想が引き出されるのも、二学期制のよいところなのです」
 
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