ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
単元構想から評価までをTTで実践し、指導と評価の一体化を推進

秋田県秋田市立 築山小学校
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いつでもTTができる態勢
 築山小学校の校長室前の廊下の壁には、カラフルに色分けされた今月分の「学習グループ一覧表」がある。いつ、何年生のどの教科でTTが行われているかが一目瞭然だ。ほとんど毎日、どこかでTTが行われていることがわかる。
「たまたまTTをするのではなく、いつでもTTができる態勢が整っています」と話すのは、研究主任の千葉学先生。一九六四年に研究を始めて以来四十年、一貫してTTに取り組んでいる同小では、TTが学校の個性となり、学校運営の根幹にもなっている。
ユニークな算数の課題選択学習
 とくにTTの取り組みが進んでいるのは算数。三年生の授業を参観した。「めざせ! わり算マスター」という単元で、七時間分の一斉型指導(一次学習)が終わり、課題選択型学習(二次学習)に入って二時間目に当たるとのこと。三学級九十人の児童に対して、四つの課題別コース、つまりA=計算問題、B=文章題、C=問題作り、D=発展問題が準備されている。Cコースに先生二人を配置するので、指導者は計五人(注1)。
 この学習のユニークさは、四つのコースを子どもたちが先生と相談した順序で回る点だ。一、二コースだけでもいいのだが、「ほとんどの子どもたちは設定されているコースをすべて回ろうとする」(千葉先生)のだそうだ。
 発展問題コースは、ギャラリースペースに座卓を置いて、寺子屋のような雰囲気で学習している。計算問題コースでは、ストップウオッチを持って、スピードにチャレンジする子もいたり…。それぞれが課題をしっかり持っているためか、自由な雰囲気のなかでも、どんどん学習は進んでいく。

▲まるで寺子屋のような雰囲気のなか、子どもたちはゲーム感覚で問題に取り組んでいる。1年生のときから学級の枠をはずした学習を経験しているためか、学年合同の学習に違和感を感じているようすはない

レディネステスト・診断テスト→形成テスト→総括テスト
 この算数学習に代表されるように、同校では指導と評価のサイクルがうまく回っている。単元に入る前に、レディネステスト、診断テストを行う。レディネステストは、その学習をするに当たって身につけておかなければならない内容、例えばわり算の場合のかけ算だが、その準備状況を調べる。診断テストでは、未習事項がどの程度できるかを調べる。両方テストすることもあるし、片方だけのこともある。
「診断テストは、これから学習する単元の構想に欠かせません。もし、かなり理解しているようなら、そこに多くの時間を割くのは、子どもたちの意欲の高まりや満足感にはつながりませんので。また、一次学習での伸びを調べるためにも、診断テストは必要です。もちろん、未習事項のテストですから、0点だって構わないわけです」
 診断テストを踏まえ単元前半に行う「一次学習」は、一学級を二つに分けた等質の小集団で行う。もちろん集団編成は、学年や単元によって変わる。ここでもTTによる指導を行うため、児童の個性・能力に応じて複数の目標を設定している。
 一次学習の終わりに、「形成テスト」を実施し、学習到達度を確認する。この結果を診断テストと比較してみれば、一次学習の成果は一目瞭然となる。
 テストを分析しながら、つまずきを発見していく作業をしたうえで子ども一人ひとりの課題をはっきりさせ、実施されるのが、単元後半の「二次学習」。学習の形態はさまざまで、課題選択学習もあれば、自由進度学習、習熟度別学習など、単元や学年に応じて工夫される。そして最後に総括テストを行う。総括テストでは、Bの評価基準を正答率八〇%においているが、ほぼ全員クリアするという。

▲課題(コース)別学習の学習シート
 コースとコースの学習内容が記してあり、回る順番は先生と相談しながら決める。「子どもに任せっぱなしだと、必要な課題を学習しないこともあるし、教師が決めるだけでは、子どもが納得できない。そのため、このような経験を積み重ねていくことで、高学年になったら、適切な自己評価ができ、必要な学習が選べるようになってくるのです」(千葉先生)。最後に、自分で振り返り(自己評価)もする


TTの中核は「学年部」協業と分業で研究を推進
 当然ながら単元の評価も、学年全体で共有し、次の単元の指導目標に生かしている。TTを指導場面だけに限定したとらえ方をしていないからだ。
「算数に限らずTTを行う場合、(1)単元構想、(2)それに基づく計画・準備段階、(3)指導場面、(4)評価場面の四つを合わせてTTだと考えています。これを協業・分業することが基本になります」
 この一連のサイクルを実現するための単位が「学年部」だ。三学級に四人のスタッフがおり、たとえ一学級だけで授業を進めるときでも、指導法は学年で共通理解し、等質な授業ができるように協力する。
「実施時間数には数えていませんが、指導場面以外の『見えない部分』も、チームで取り組んでいます」と千葉先生。
 学年部で動くのが原則だが、例えば学年部で作った指導案は、教科主任、TT推進委員長、研究主任、教務主任、教頭、校長に回覧して、アドバイスをもらうし、担任以外の先生がTTに加わることが可能な曜日・時間別の「TT待機一覧」ができているので、学年部でスタッフが不足するときには、いつでも助けを求められる。そのような教務主任を中心とした全校のバックアップ態勢ができている(注2)。
年度初めのスペース確保と時間割編成がポイント
 「いつでもTT」のポイントになるのが、年度当初の特別室の配分、つまりスペースの確保と時間割編成だ。
 突然、TTをしたいと思っても、スペースがない、周りの先生と融通をつけなくてはならないでは、ムダな動きが発生する。同小では、四月早々、まず時間割をイメージしながら学年部で必要な特別室の確保をする。そのうえで学級別の時間割を編成するのだが、その際、日常的にTTを展開する算数や音楽、総合的学習などは学年で同時間にそろえなければならない。つまり、学年で話し合いをしなければ何一つ始まらない。
 共同作業せざるを得ない状況が続くので、四月に着任した先生もあっという間に溶け込み、五月の連休明けには、もう何年も在任しているかのような顔つきになってくるのだという。
TTのもう一つの側面は教師の指導力アップ
 「TT導入当時は『協力教授組織』と呼び、教師同士が互いの指導力を高めるために協力するという理念がありました。その理念は今でも変わっていません」
と加藤俊悦校長は話す。TTとは、一人で全教科を教えるのが原則になっている小学校教師の、得意・不得意を補い合うために生まれた指導法というとらえ方だ。
「『協力はするけれど、もたれ合わない』という気持ちを忘れず、リーダーシップをとれる教科・領域をちゃんと持っていることが大事だと思います。今後はTTを展開する教科・領域の幅をさらに広げていくこと、とくに国語の単元を開発していくのが課題です」(千葉先生)
▲校長室の前には「学習センター」があり、公開した授業の資料、研究論文、使用した学習シートや問題文など、40年分の資料がすべて集まっている。とりわけ、「総合的な学習の時間」をすべて最初から開発していくのはとても大変だから、ここに残っているものを上手にリメイクしながら活用することを勧めている。転勤してきたばかりの先生や講師の先生にとっては、ここは「宝の山」

注1 5人のスタッフが各学年部に加わる(1・2年生で1人、それ以外は各学年1人で合計5人)。スタッフの内訳は、国から2人、県から1人の加配教員と、音楽専科1人+特学担任1人
注2 TTの人的構成[スタッフ…学年部(学級担任+1人)。ゲストティーチャー…スタッフとの打ち合わせのもと、その専門性を生かして子どもの学習の支援にあたる。ヘルパー…校長、教頭、教務主任、その他の教職員、保護者などの協力者。学年部からの依頼により単元内の特定の時間だけ支援]
 
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