特集 「考える力」を引き出す授業―理数教科からのアプローチ―

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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「経験的な思考」から「算数的な思考」へ

 考える楽しさを覚えた子どもたちは、教師が答えを言おうとすると「言わないで!」と、最後まで自分で考えたがるようになるという。こうした姿勢は、抽象的な概念を扱う算数には特に不可欠だ。
 「算数は、概念形成が核になる教科です。算数で扱う概念は、生活経験を通して身についている思考とはズレていることもあるので、その理解には自らの頭で考えることが必要です」
 しかし、「経験的な思考」に慣れた子どもを、「算数的な思考」へと導くのは容易ではない。そのため、ともすれば公式を教え、それを機械的に問題に当てはめさせる授業になりがちだ。だが、そうした授業は、考えることを面倒くさがる子どもを増やしてしまうと和田先生は指摘する。
 「答えを出すことだけが算数の目的と考え、拙速に答えを求めるようになります。そうではなく遠回りでもいいから、じっくりと考えさせることが、算数では何より重要です」
 そのためには、必要な箇所で「授業を止める」ことが大切だと和田先生は強調する。その例として、1年生の「繰り上がりのたし算」の授業を見てみよう(図2)。

図2
 この単元では、十進法の概念を理解させることが目的だ。そのためには、たし算の過程で、「10の束」を作ると便利だということを実感させる必要がある。
 冒頭で、和田先生は「8たす3はいくつ?」と質問する。この段階では、「8・9・10・11」と、指を折って数える子どもが多い。「10の束を作り、それに1をたす」という考えは頭のなかにはないのだ。
 「子どもは指折り数えるのが普通です。10の束が便利というのは算数的な考えですから、それを理解していないのは当然です」
 次に、10個のマス目のうち、8個が埋められた状態の絵を見せる。マス目の外には余分の3個を描いておく。すると子どもたちは、残りの2個のマス目を埋めたがる。外の3個を使ってそれを埋めさせ、「どうなった?」と意見を求めると、「いっぱいになった」「ぴったりはまった」「すき間がなくなった」といった答えが飛び交う。ここが先生の、授業を「止める」ところだ。
 「10の束という算数的な思考は、まだ言葉にしていません。それが子どもたちの口から出るまで、いろいろな角度から質問し、じっくりと授業を進めます」


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