ベネッセ教育総合研究所
第1章 地方自治体がひらく新しい教育
梶田叡一
兵庫教育大学長・中央教育審議会委員
梶田叡一

かじた・えいいち◎1941年島根県生まれ。66年、京都大大学院文学研究科修士課程修了。文学博士。大阪大教授、京都大教授、京都ノートルダム女子大学長などを経て、04年12月に兵庫教育大学長に就任。現在、文部科学省中央教育審議会委員も兼任する。『絶対評価(目標準拠評価)とは何か』(小学館)、『基礎・基本の人間教育を』(金子書房)など著書多数。
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第1章
地方自治体がひらく新しい教育

教育の地方分権が進むなか、 地方自治体は、地域性を生かした 主体的な教育づくりを求められている。 学校と地域社会とが一体となった教育を実現するために 教育委員会は国との関係、 学校との関係をどのように構築しながら 教育水準の維持・向上を図っていけばいいのか。 地域の子どもの学力を、地域の力で育てるために、 地方自治体が成し得る 「現場主義」の改革を探る。


インタビュー
地域重視の時代における地方教育委員会の「教育力」
国が主導する「トップダウン型」から、地域がリードする「ボトムアップ型」へ――。
今後、教育現場において、地方自治体の担う役割は、ますます大きくなると考えられる。
そうした流れのなかで、地域に根ざした教育の舵を取る市区町村の教育委員会には、今、何が求められているのか。兵庫教育大学長で、中央教育審議会の委員も務める梶田叡一氏に聞いた。


教育委員会のあり方が見直される時期
 「国から地方へ」という義務教育改革の流れを端的に示すのが、国が半分近くを負担していた義務教育費のすべてを都道府県に委譲しようという論議です。しかし、これは小泉内閣が財政難から打ち出したもので、現時点では、教育的な視点からは十分に検討されていません。自治体の負担増は、国から地方への税源委譲や地方交付税の増額でカバーするという案はあるものの、現在の制度下では、地域の教育格差をはじめとした弊害が生じる可能性があります。秋頃には中教審の答申が出される予定ですが、教育的な配慮を十分に凝らした内容になることが望まれます。
  財政面に加え、地方教育委員会の義務教育へのかかわり方も、大きく見直されようとしています。そうした流れのなかで、国と自治体の双方が、それぞれの役割を見失わないためにも「ナショナル・ミニマム」「ローカル・オプティマム」という二つの概念を正しく認識しておかなくてはなりません。
  教育におけるナショナル・ミニマムとは、国民に対する最低限の教育は国が保障するという考え方です。本来、「教育」とは次世代の人材を育てる国家事業であり、地方分権とは相容れない領域です。子どもを未来からの「留学生」と考え、国全体の将来を見据えた教育を提供することが、国際的な競争力を確保するためには不可欠です。
  一方で、教育では地域性を考慮することも重要です。それぞれの地域が選択する地域ごとの最適状態をローカル・オプティマムと言いますが、教育について言えば、地域の特性を教育に反映させ、「うちの町」「うちの学校」に適した教育を展開することを意味します。現在の教育改革は、ナショナル・ミニマムの要素を残しつつ、ローカル・オプティマムをより重視する方向に進んでいると言えます。
  すでに国、都道府県の教育委員会、そして市区町村の教育委員会(地教委)という、かつての上意下達の構図は大きく変化しています。制度上では、土日の活用や長期休業の短縮を市区町村単位で任意に決められるなど、地教委の権限はかなり大きくなっています。まずは、そうした仕組みを最大限に活用するための意識改革が急務でしょう。


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