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沈黙をおそれず、教師は「舵(かじ)取り役」に
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5、6年前まで、木部先生の授業スタイルは今と全く違うものだった。良い授業とは、子どもたちが乗ってくる楽しいものだと考えていたと、木部先生は振り返る。
「私が面白い授業を企画して、それに子どもたちが乗って盛り上がれば、それでよいと思っていました。『クラスの独裁者』のような気分だったかもしれません。子どもが飛びつくような材料でショーのような授業をするのは簡単なことでした。今思うと、涙が出るくらい恥ずかしいですね。傲慢(ごうまん)でした」
前任校で「聴き合う授業づくり」の研究が始まったものの、当時の校長先生からも「先生が話しすぎだ」と指摘された。
「言葉だけではなくて、子どもたちのちょっとした仕草やつぶやきを拾っていくことから始めようと思いました。そのためには、教師が子どもの話をよく聴かなければなりません」
ところが、最初のうちは聴き漏らさないようにと力みすぎ、話したいときに言葉が出ず、失語症のようになってしまったことがあったと、木部先生は打ち明ける。
「教室でのいろいろなことが気になってしまって、疲れてしまいました。こんなことを一日中できるかなって思いました」
そんなとき、ある大学の先生から「立つ位置を変えたらどうか」とアドバイスを受ける。
「物理的な位置ではなく、気持ちの中で立つ位置をずらしてみてはと指摘され、もっと子どもたちを信じて、委ねてもよいことに気がつきました。私は、授業中、間が空くのが怖かったんです。シーンとした教室が。でも、その子が考えているなら、『待つことの間』を怖がってはいけないと思い始めました。ある子の意見を待っていたとき、ほんの2分がとても長い時間に感じられました。すると、別の子が『A君はこういう風に思っているんじゃないの?』と、言ったのです。友だちの発言をただ待つのではなくて『この子は何を言いたいのだろう』と一緒に考える子どもが出てきたのです。教師が待っている時間は、ただの沈黙の時間ではないことを実感しました」
教師がしっかりと聴かずに子どもたちの言葉を途中で遮ってしまうと、子どもも人の話を聴かなくなってしまう。教師が子どもの発言をどう受け止めているかを、子どもはきちんと見ているからだ。
「声の大きさも大切です。静かな空間をつくるために、大声ではなく、普通の声で話すようにしています」(木部先生)
「発言者の方を向く」「一斉に相づちを打つ」といった「聴く型」を決めているわけではない。どの教科でも、人の話を聴いて自分の考えを深められるような授業を目指している。
「2+3=5とわかることも大事ですが、友だちの話を聴き、自分の思いを重ねたり、擦り合わせたりすることが一番大切だと思います。私の目標は、子どもたち自身が授業をつくり上げていくための舵取り役になることです」(木部先生)
こうした働きかけは、どの学年でも基本は同じだ。低学年の場合、「同じ考えの人はいる?」など、教師が児童の思考を促す場面を増やすよう心がけている。 |
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