教師がつながる「授業研究」
油布佐和子

▲油布佐和子

Yufu Sawako
ゆふ・さわこ◎東京大大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。福岡教育大教育学部講師、助教授を経て、2001年より教授に就任。専門は教育社会学、教師論。著書に『転換期の教師』(放送大学教育振興会)、『シリーズ子どもと教育の社会学5 教師の現在・教職の未来』(教育出版)など。

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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教師がつながる「授業研究」

指導力を向上させるための手法として、日本の学校で伝統的に実践されてきた授業研究。だが、学校現場の多忙化や世代間ギャップの拡大で、その文化の維持が難しくなってきた。そこで今号では、いくつかの学校で実践されている工夫を見ながら、学校全体、教師個人が、着実に力を積み上げられる授業研究の方法を探る

【インタビュー1】

できるところから始め
「形」ではなく「実」を取る授業研究を

福岡教育大教授
油布佐和子

日本の教育は質の高い授業研究に支えられてきた。しかし、福岡教育大の油布佐和子教授は、教師の年齢構成のひずみなどにより、その機能が低下しつつあると指摘する。今の時代に合う授業研究とはどのようなものか、お話をうかがった。

だれにもメリットがない授業研究の形骸化

 日本の授業研究は、海外の教育研究者から高く評価されてきました。教師同士の研修によって、授業力や生活指導力、学級運営力が支えられてきた日本の状況は、諸外国にモデルとされるようになっています。例えば、学校の同僚同士で研修を行う習慣がなく、個人主義が徹底しているアメリカでも、近年は日本に倣って導入が進められています。
  ところが、近年、日本ではその状況が大きく変化しています。教員組合の研究集会や、また、全国各地で活発に実施されてきた自主的な研修サークルになかなか人が集まらず、参加者が固定される状況が見られるようになりました。サークルの運営の継続が危ぶまれているケースも少なくないようです。
  その要因には、教師の参加意欲が減退しているだけでなく、世代間ギャップなどによって、誘い・誘われるという関係がうまくいっていないことや、サークルが閉鎖的な集団に見え、足を運ぶのがためらわれるという心理もあると思います。それでも、やる気のある教師は休日に参加しますが、たいていは日々の仕事に精一杯で参加できないのが現実です。
  一方、文部科学省や自治体ごとの指定校研究は盛んに行われていますが、率直に言って、現場の教師にはあまり歓迎されていないものも多いと思います。教育現場が多忙であり、制度自体の形骸化によって、参加してもメリットが少ないという要因があります。実際、せっかくの授業研究なのに、研究授業後の協議会では、「役に立ちました」「良い授業を見せてもらいました」といった慰労を表す発言ばかりが続き、改善のための議論が行われないケースがたびたび見られます。
  授業者にも、あるテーマを追究するために研究に臨む、という意識は希薄です。授業研究を発表会のような場と捉え、良い評価を受けることのみを意図して準備している印象を受けます。これでは、参観する教師が学ぶことがないと感じても仕方ありません。このように、多くの授業研究は教師が切磋琢磨する場として機能しているとは言い難い状況なのです。
  教師が集団になると、「みんなで高め合う」力を発揮できる一方、悪くすれば「みんなでお茶を濁し合う」方向に進みかねません。後者の場合、授業研究で大した成果が得られないことはいうまでもありません。


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