▲耳塚寛明
みみづか・ひろあき◎1953年長野県生まれ。専攻は教育社会学。東京大教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程中退。Benesse教育研究開発センター「学習基本調査 国内調査」の研究会代表として、第1回から調査企画・分析を担当。近著に『学力とトランジッションの危機…閉ざされた大人への道…』(共著編/金子書房)など。
ベネッセ教育研究開発センターが全国の公立小・中学校の教師を対象に実施した「第4回学習指導基本調査」で、ここ数年の学習指導や教師の実態が明らかになった。この結果を文部科学省が実施した「全国学力・学習状況調査」の結果と照らし合わせると、何が見えてくるのだろうか。「第4回学習指導基本調査」の研究会代表でお茶の水女子大大学院の耳塚寛明教授に、教育現場が抱える課題や今後の展望を聞いた。
現在の教師の実態で非常に気がかりなことは、多忙化です。「学習指導基本調査」の結果を見ると、前回の2002年、前々回の1997年の調査結果と比べ退勤時刻が遅くなり、学校にいる時間が長くなっています(「データからみる教育」P.2参照)。今後、学習指導要領の改訂による授業時数の増加、教員免許更新制による研修などが予定されています。その影響で、教師がますます多忙になっていく可能性は否定できません。 教師の忙しさには、2つの側面があると考えています。1つは仕事量が多く、実際に忙しいという状況です。これには書類作成や雑務の多さに加え、特に完全学校週5日制導入後に平日の日程が過密化した状況が関わっていると思います。 もう1つは、気持ちの面から生じる多忙感です。「仕事が細切れで1つのことに集中できない」「自分が本来すべき仕事ではない」と思うことから、忙しいと感じてしまうのです。今回の調査結果では、「教材準備の時間が十分にとれない」などの理由から、多忙感を抱く教師が多いことが明確に表れています。本来の職務に打ち込んでいると本人が感じられれば、たとえ仕事が忙しくても充実感や満足感が得られるでしょう。しかし、そうは感じられない場合、多忙による負担感ばかりが募りますから、早急な対策が望まれるところです。 ただ、そもそも教師の数が不足しているなどの原因があり、多忙化への対策は学校独自に取り組めないことが多いのも現実です。教師の頑張りだけに期待するのではなく、行政による支援が不可欠な状況といえるでしょう。教師の増員が予算的に難しいのであれば、優れた能力を持つ教師を満遍なく配置し、若手教師にノウハウを効率よく伝えるのも1つの方法です。 私は、学校が仮に週6日制であっても、教師の勤務形態は交代制によって週5日制にするのが理想的だと考えています。それが無理ならば、長期休暇中はきちんと休ませるなどして、教師の負担感を何とか軽減する方法を考えなくてはならない状況といえます。
第4回学習指導基本調査
●調査方法 郵送法による質問紙調査 ●調査時期 2007年8~9月 ●調査地域 全国 ●調査対象 (1)教員調査 公立小学校の教員(学級担任のみ)1,872人 公立中学校の教員(国語・社会・数学・理科・ 外国語のいずれかの担当のみ)2,109人 (2)学校調査 公立小学校の校長 528人 公立中学校の校長 559人 ※※詳しい内容はこちら(『第4回学習指導基本調査・速報版』へ)にあります。