新学習指導要領へのアプローチ 第1回 「言語活動」で広がる学び

田中博之

▲田中博之


たなか・ひろゆき◎1960年生まれ。大阪大人間科学部助手、大阪教育大助教授等を経て現職。専門は教育工学、教育方法学。子どもの総合学力の向上を狙いとした実践的な研究を行っている。編著書に、『講座・総合的学習のカリキュラムデザイン』(全6巻、明治図書)『ヒューマンネットワークをひらく情報教育』(高陵社書店)ほか。


*本文中のプロフィールは取材時(08年3月)のものです

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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新学習指導要領へのアプローチ 第1回
「言語活動」で広がる学び

2011年度から実施する学習指導要領が告示された。
今年度は毎号、新学習指導要領について取り上げる。
第1回目は、各教科・領域等を貫く「言語活動の充実」をテーマとした。
研究者の意見や学校の実践事例、
読解力の教育で注目を浴びるフィンランドでの取材から、
どのような指導が必要となるのかを考える。

【インタビュー】 実践のポイント

体験や学び合いによって言葉の力を育み表現を豊かにする

大阪教育大教育学部教授 田中博之

新学習指導要領で、「言語活動」は教育内容に関する改善事項として位置づけられている。
「生きる力」につながる子どもの「言葉の力」を育むポイントは何か、
どのような指導が求められているのかを、大阪教育大の田中博之教授にうかがった。

全教科・領域等で体験を通じて「言葉の力」を育てる

 新しい学習指導要領で私が注目しているのは、教育内容に関する改善事項として、「言語活動の充実」が盛り込まれていることです。「言語活動の充実」は、「言葉の力を育てる活動の充実」と言い換えた方がわかりやすいかもしれません。
  私たちが生きる21世紀社会は、環境問題をはじめとしたさまざまな問題が山積みとなっています。そうした社会で大切なことは、論理的な思考や感性を働かせながら問題解決の方法を探り、自分の考えを自分の言葉で表現する能力です。PISA(注1)でも読解力を「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」と定義しています。自己実現や社会参加のための重要な道具として、言語を活用できる能力を獲得することが不可欠となるわけです。ですから、今回の学習指導要領の改訂で「言語活動の充実」が盛り込まれたことは、非常に意味のあることだと思います。
  新学習指導要領では、「言語活動の充実」を全教科・領域等で展開する、としています。「言語活動」というと、一般的には「国語科で行うべきもの」と考えがちです。しかし低学年では、生活科こそ地域の人とのかかわりや自然観察などの体験を通して、「言葉の力」を伸ばす絶好の教科です。同じように中学年以降の理科や社会科でも、データを読み取って仮説を立て、それを仲間との討論を通して検証していくことによって、「言葉の力」を鍛え上げていくことができます。
  もちろん、「言葉の力」を育てる上で軸となる教科は、国語科です。国語科では語彙を増やして豊かに表現できる能力や、文章を的確に理解できる能力の獲得を目指します。
  しかし、「言葉の力」は単に言葉を学べば身につくものではありません。例えば、国語の授業で「敬語の使い方」を勉強しても、活用する場面がなければ役立ちません。そこで、「総合的な学習の時間」(以下、総合学習)で交流している高齢者に手紙を書く場面を設定すれば、子どもは高齢者に少しでも思いを伝えようとして、国語で学んだ敬語を懸命に使おうとするはずです。
  いわば、国語科の学びが「言葉を通した言葉の力の育成」であるのに対して、他教科・領域等の学びは「体験を通した言葉の力の育成」であり、「言葉の力の育成」においてはその両方が重要です。「言語活動の充実」に全教科・領域等で取り組むことには、そうした意味があるのです。

注1 OECD(経済協力開発機構)が実施する、15歳児(日本では高校1年生)を対象とした国際的な学習到達度調査。2000年に第1回の本調査を行い、以後3年ごとに実施。07年12月に結果が発表された06年調査は第3回で、57か国・地域が参加。第1回は読解力、第2回は数学的リテラシー、第3回は科学的リテラシーを重点的に調べている

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