低学年からの学びと指導 幼小接続をスムーズに
VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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〈空間・時間の使い方〉

小学校…空間・時間の区切りが明確

幼稚園…空間・時間の制約が少ない

 幼稚園に異動した小学校教員が異口同音に語っていたのは、空間の使い方の違いだ。廣内厚士先生はこう話す。
  「小学生は基本的にクラスごとに同じ空間で過ごすのに対し、幼稚園児はそれぞれ興味・関心によって、教室や廊下、園庭など別々の場所で遊びます。そのため、クラス全員に目を行き届かせるのが難しく、『あの子は今日、何をして遊んでいたのか』と、不安になることがありました」
  時間の使い方の違いも大きい。
  「小学校では、時間の区切りが明確でチャイムが鳴るという当たり前のことに、なかなか慣れませんでした。私が感じたのですから、子どもも小学校に入ったら戸惑いを感じるでしょう」と、幼稚園から小学校に異動した濱田理恵先生は言う。

〈指導法〉

小学校…単元指導計画を基に指導

幼稚園…日々子どもを見ながら指導

 空間や時間の使い方の違いは、指導法の違いとも深く関係する。小学校では、年間指導計画を基に単元計画と授業計画がつくられる。指導は、一つずつ階段を上り、最終的なゴールを目指すというイメージだ。
  一方、幼稚園には長期的なめあてはあるものの、前日の子どもの様子を見ながら活動内容を調整しており、到達点は全員が必ずしも同じではない。小野順子先生は、そうした幼稚園の指導に難しさを感じたという。
  「幼稚園では、決まった教材や指導書はありません。子どもそれぞれの遊びの中での豊かな学びを見取っていくこと、そして、それを次につなげて生かせるようにしていくことの難しさ、大切さを強く感じました」
  同様に指導法の違いについて、芝井豊明先生は運動会の種目に関するエピソードを挙げる。
  「小学校では、教師が学年に応じた種目を準備します。ところが、私の異動した幼稚園では、ある女の子が考え出した段ボールを用いる乗り物ごっこが園内に広まり、それが運動会の種目になりました。幼稚園では、子どもの興味・関心に沿った活動を計画し、その中で教師の願いやねらいが達成できるように工夫します」
  廣内先生が幼稚園で体験した出来事も幼小の指導法の差を象徴している。あるとき、子どもたちがリレーをするために石灰で園庭にトラックを描いた。しかし、その円は小さく曲がっていたため、廣内先生は描き直した。子どもたちはリレーを楽しんだが、幼稚園教師には「もったいないことをした」と言われたという。
  「幼稚園の先生は、まず子どもが描いたトラックを認め、そこで十分満足するまで走ることを楽しませたいと言いました。子どもたちにとってリレーをするために円の大小、形の良し悪しは関係なく、実際に遊んで自ら必要性を感じたら、より走りやすい大きさや形を意識したトラックを描き始めるし、発達や経験に応じたねらいから、子ども自身が気づくように、教師が遊びの様子を見ながら働きかけたりすることもあるというのです。まずは、子ども自身が主体的に環境に働きかけ、自分たちでつくった遊びの場で、遊んだり試したりする経験を大切にすることが幼稚園の教育なのだと気づきました」
  一方、小学校に異動した幼稚園教師は、どのように感じたのだろうか。那須宏子先生は次のように話す。
  「幼稚園では『きれいだね』『見つけたよ』と子どもとの共感を大事にしますが、小学校では、いろいろな考えを導くための言葉かけも多いと感じました」
  那須先生は、幼稚園教師の頃、小学生になると「~です。理由は~だからです」といった話し方に変わることを不思議に思っていたという。ところが、小学校を体験し、少しずつその思いが変わっていったと話す。
「子どもが話型を使って話すとわかりやすいことに気づき、いったん自分のものにしてしまえば、より豊かに自分の思いを表現できるのではないかと考えるようになりました。幼児期に『話したい』という思いを十分培っておくことが重要だと思います」

〈評価方法〉

小学校…客観的な評価指標

幼稚園…独創性や心情面を重視

 評価法も幼小では当然大きく異なる。那須先生が担任したクラスに昆虫が大好きな小学生がいた。ミニトマトの苗を観察させたときに、その子は「葉っぱがいっぱいあってトンネルみたい」と書いたという。
  「その子は昆虫の気持ちになって表現していたのです。『面白い発想だね』と認めましたが、『このよさが各教科では評価されにくいのでは』と思い、難しいと悩みました」
  濱田先生も評価について考えさせられる点があった。
  「小学校には通知表があり、子どもを評価するということに戸惑いました。評価は教師自身に返ってくるものであり、子どもが興味を持てなかったのであれば、教師が自分の指導の在り方などを見直していかなくてはならないものだと考えるからです」

〈その他の違い〉

校園舎・教室環境のギャップ
保護者との関係など

 幼稚園は小学校に比べて園舎の規模が小さく、明るくかわいらしい雰囲気だ。一方、小学校は校舎が大きく、やや殺風景な印象がある。廣内先生は、こうした環境の違いが子どもに及ぼす影響について指摘する。
  「普段は元気な園児が、高齢者施設の訪問時に急に緊張してしまったのです。『こんなにも環境の変化に戸惑うのか』と驚きました。小学生になると、見慣れない校舎に通い、体の大きな上級生たちに囲まれ、いすに座って勉強し、時間を区切って行動します。これだけ環境が変われば、子どもが戸惑うのは当然でしょう」
  保護者との関係にも、幼小には大きな違いがある。幼稚園では毎日の送迎で顔を合わせるため、報告や相談がしやすく、信頼関係を築くのが比較的容易だ。一方、小学校では連絡帳によるやりとりがメインで、顔を合わせる機会が少ない。「保護者の気持ちを汲み取るのが大変だった」と、那須先生は話す。

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