東京大学生相談ネットワーク本部
亀口憲治
特任教授
Kameguchi Kenji
九州大大学院博士課程単位取得退学。専門は臨床心理学、家族心理学、家族療法。著書に 『体験型の子育て学習プログラム15』(図書文化社)、『家族療法』(ミネルヴァ書房)など。
学校と家庭の連携をスローガンに掲げるのはたやすい。しかし、「連携のために」と 新たなイベントを立ち上げたり、保護者の協力を改めて求めるのは、 現在の多忙な学校現場においては大変なことだ。目の前にいる子どもを通じて、 家庭との連携を図ることの大切さについて、東京大の亀口憲治特任教授に聞いた。
学校と家庭との連携は大切だと繰り返し言われながらも、うまくいっているとは言い難い状況です。その理由の一つに、家庭の実態が急速に変化し、学校側の認識との間にずれが生じていることが挙げられます。 これまで多くの学校では、暗黙のうちに「夫婦と子ども2人」を標準的な家庭像として想定していました。ところが実際には、想像以上に家庭の多様化が進んでいます。 こうした変化は家庭内の事情だけに、表立って語られることはありません。「お父さん、お母さん」という言葉を「保護者」と置き換えただけで、現実の変容に目を向けないまま、「どの子もみんな同じ」という仮想平等を維持しようとしている傾向が見られます。 また、一見、「標準的」な家庭の中にも変化は生じています。母と子、父と子、親と子が語り合う場面がとにかく少なくなっています。母親は忙しく、父親も不在。子どもはテレビやゲームに没入する。語り合いのない空虚な仮面家族の中で、子どもはとにかく勉強しろと追い立てられながら思春期を迎えてしまう。どの子どもにも問題が生じる可能性があるのが現状なのです。そんな中にあって、形だけの学校と家庭の連携の機会を増やそうとしても、なかなかうまくいかないでしょう。