地方分権時代の教育行政 神奈川県横浜市


概略

■神奈川県横浜市

人口約360万人を抱える政令指定都市。市立小・中・特別支援学校は503校、児童・生徒数は約27万人に上る。教師の新卒採用数は2007年度、08年度共に約1,000人。06年に市の基本構想(長期ビジョン)を33年ぶりに改訂し、「市民力と創造力」をキーワードに打ち出した。市全体が目指す都市づくりの方向性と一体となった教育行政を推し進めている。

 

【横浜市教育委員会】

〒231-0017
横浜市中区港町1-1
TEL 045-671-3732(授業改善支援課)
URL http://www.city.
yokohama.jp/me/kyoiku/

服部信雄

▲横浜市教育委員会事務局
教育センター 授業改善支援課課長
(08年4月から横浜市立元街小学校校長)

服部信雄

Hattori Nobuo

齊藤一弥

▲横浜市教育委員会事務局
教育センター 授業改善支援課主任指導主事
(08年4月から首席指導主事)

齊藤一弥

Saito Kazuya

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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地方分権時代の教育行政
地方自治体の学校教育への新たな取り組み

神奈川県横浜市

「横浜版学習指導要領」を基に
各学校へのきめ細かな支援を強化

横浜市は「横浜版学習指導要領」を策定すると共に、各学校の授業力を高める仕組みづくりを進めている。拠点となる授業改善支援センターを市内3か所に開設するなど、政令指定都市への権限委譲を視野に入れ、学校現場へのきめ細かな支援を強化している。

各学校の特色を生かしたカリキュラム作成を支援

 横浜市は「横浜版学習指導要領」(以下、横浜版要領)の策定を進めている()。既に「総則」と「総則解説」をまとめて、市立小・中学校の全教師に配付。「保護者・市民版」も作成し、学校を通して保護者全員にも配付した。2008年度中には、「教科等編」として、小中一貫カリキュラムの下、『横浜の時間』として再編成する「総合的な学習の時間」や小・中学校9年間の英語教育などの指導内容や指導方法を具体的に示す。更に、09年度には「指導資料」と「評価ガイド」をまとめる予定だ。
 同市の教育に関する計画は、市の全体計画と連動させた「横浜教育ビジョン」(10年計画)、「横浜教育ビジョン推進プログラム」(5年計画)、「運営方針」(1年計画)の3層からなる()。横浜版要領は、このうち「推進プログラム」の重点政策の一つとして位置づけられている(図1)。同市が目指す「市民力・創造力」を兼ね備えた「市民」を育成するために、国の学習指導要領の改訂内容をすべて盛り込んだ上で、教育課程のローカルスタンダード(地域に合った基準)を示している。

図1
*「横浜教育ビジョン推進プログラム」の詳細は以下のウェブサイトを参照
http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/vision/

 横浜版要領の策定に向けた委員会には、市立学校の校長や有識者、民間企業や報道機関関係者らが参加した。当初は「国と市の二重基準になるのではないか」という指摘が学校現場などからあった。しかし、横浜市教育委員会(以下、市教委)授業改善支援課の服部信雄課長は、「学習指導要領という名前にインパクトがあったため、今回初めて作成するように受け止められましたが、実は同じようなものを以前から作成していました」と打ち明ける。
 それは、51年から作成してきた「横浜市教育課程(後の『教育課程編成の指針』)」のことだ。
 服部課長は、「横浜市教育課程は各学校に数部しか配付していなかったため、存在すら知らなかった教師もいたと思います。その反省も踏まえ、今回の横浜版要領は全教員に配りました。各学校では、国の学習指導要領ではなく、横浜版要領に則り授業を行うことになりますが、決して二重基準にはなりません。国の指導要領に横浜らしさを加えた上で、市立学校のカリキュラムの基準を示すものです」と説明する。
 横浜市は人口約360万人を抱える大都市であり、市立学校にはそれぞれの地域性や特色が色濃く反映されている。例えば、私立中学校を受験する児童が学年の3割にも上る小学校もある。各学校に求められるのは、地域の特色や実態、課題に合わせてカリキュラムを編成(Plan)し、運営(Do)、評価(Check)、改善(Action)するPDCAサイクルを自主的・自律的に回していくことだ。そのためには、最低限共有すべき横浜市の教育理念を理解した上で、学校独自のカリキュラムに反映させる作業が必要になる。横浜版要領の役割は、こうした学校現場の取り組みを支援することだ(図2、図3)。

図2
*出典/「横浜版学習指導要領 総則・総則解説」
※FA…希望指名制度(教職員が能力や経験をアピールし、校長と直接交渉して異動できる制度)
 TA…人材公募制度(校長が自らの学校経営方針を明確にし、意欲のある人材を公募する制度)
▼クリックすると拡大します
図3

 小学校では11年度から、中学校では12年度からの新学習指導要領全面実施に向けて、移行期間に「教科等編」や「指導資料」、「評価ガイド」を順次、完成させる。各校は、カリキュラムのPDCAサイクルを行うマネジメント体制を段階的に整えていくことになる。

注)「横浜版学習指導要領」「横浜教育ビジョン」については横浜市教育委員会のウェブサイトをご参照ください
  http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/plan_hoshin/youryou.html(横浜版学習指導要領)
  http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/vision/(横浜教育ビジョン/横浜教育ビジョン推進プログラム)

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