新学習指導要領へのアプローチ 第3回 「問題解決能力」を高める理科指導

角屋重樹

▲角屋重樹


かどや・しげき◎博士(教育学)。専門は理科教育・理科教育方法学。広島大大学院教育学研究科教科教育学(理科教育)専攻博士課程単位取得退学。文部省初等中等教育局教科調査官、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会小学校・中学校理科専門部会委員などを歴任。編著書に『ベネッセ発 親子で伸ばす「本物の学力」』(監修・日経BP社)、『小学校 理科の学ばせ方・教え方事典』(共編著・教育出版)など多数。

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新学習指導要領へのアプローチ 第3回
「問題解決能力」を高める理科指導

理数教育の充実を掲げる新学習指導要領において、理科では基礎的・基本的な知識や技能の定着と共に、「問題解決の能力」の育成と「科学的な見方や考え方」を養うことが求められている。
新学習指導要領ではどのような点が改訂されたのか。
日々の授業をどのように改善すればよいのだろうか。今後の理科の指導について、研究者へのインタビューと学校事例から考える。

【インタビュー】 これだけは知っておきたいポイント

「基礎的・基本的知識」を基に思考力・判断力・表現力を育成する
問題解決過程の構築を

広島大大学院教育学研究科教授 角屋重樹

理科の学習指導要領では、どのような点が改訂されたのか。
改訂の背景やねらい、求められる指導法の改善について、広島大大学院教授の角屋重樹先生にうかがった。

Q1:理科を含めた学習指導要領の改訂で、「必ず押さえるべきポイント」を教えてください。

A1今回の改訂は、教育基本法、並びに学校教育法の改正に基づいていることを理解してください。とりわけ、学校教育法に(1)「基礎的な知識及び技能」、(2)「思考力、判断力、表現力」など、(3)「主体的に学習に取り組む態度」の重要性が明記されたことは極めて重要な意味を持ちます。従来、このようなことは学習指導要領の総則に記されていました。法律に「格上げ」されたことにより、小・中・高等学校において、先の(1)~(3)を育成する重要性が一層高まりました。

関連
・学校教育法第30条第2項、第49条、第62条等:総務省行政管理局「法令データ提供システム」 http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

Q2:なぜ主体的な学びや、思考力、判断力、表現力などが大切なのでしょうか。

A2社会の国際化がますます進展すると予想され、主体性や自己の確立、他者に的確に伝える表現力などが、今以上に求められるからです。PISA調査(注1)では、日本の子どもはこのような力が十分でないことが明らかになりました。特に、根拠を持って自分の言葉で考えを述べる問題などで、OECDの平均に比べ無答率が高かったのです。これらが、今回の改訂と指導の見直しの背景にあります。

関連
・PISA調査結果について:文部科学省「国際学力調査」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/07032813.htm
無答率が高かった2000年調査の「落書きに関する問題」などが掲載されています。
注1経済協力開発機構(OECD)が実施する、15歳児(日本では高校1年生)を対象とした国際的な学習到達度調査。2000年に第1回の本調査を行い、以後3年ごとに 実施。07年12月に結果が発表された06年調査は第3回。第1回は読解力、第2回は数学的リテラシー、第3回は科学的リテラシーを重点的に調べている

Q3:理科の改訂で、変わること・変わらないことは何ですか。

A3理科では、学習内容や時数に大きな変更がありました。「観察や実験を通して問題解決の能力を育てる」「実生活と関連付けて理解を図る」「科学的な見方や考え方を養う」といった基本的な指導の方向性は、これまで通りと考えて問題ありません。
 ただ、理科の目標は「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う」となり、「実感を伴った」という文言が加えられました。実生活との結び付きや実験や観察を通じての学習がより強調されたといえます。
 ここでいう実感を伴った理解とは、(1)体験に基づく理解、(2)習得という意味での理解、(3)納得という意味での理解、の3種類に大別できます。(1)は、観察、実験などを通じて、事象を感覚や知覚などの体験に基づいて理解するという意味です。(2)は、子どもが観察・実験などの過程を経て、知識を習得するという意味です。(3)は、観察や実験などで得た事象の性質や規則性を、ほかの学習場面や日常生活などに適用し、性質や規則性が役に立つことを実感するような理解です。このように、子どもが自ら感じることに基づいた理解を目指しているといえるでしょう。


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