「大切なのは、先生が英語をうまく話すことではないのです」
取材中、梅本龍多先生は何度かそう繰り返した。
梅本先生は、同学区内の前任校で10年間、英語活動の指導を担当したあと、3年前に高向小学校に異動し、引き続き英語を担当している。両校とも小学校英語の研究開発学校で、その立ち上げにかかわった。元々英語が得意というわけではなかった梅本先生は、自身の体験から、小学校英語に取り組むにあたり、「急がば回れの精神が大切」と感じている。
「授業の体裁を整えるために、急いでクラスルーム・イングリッシュ(英語学習の際、どのような活動・場面でも頻繁に教師が子どもに対して使える英語表現)を身に付けようとしても、慣れずにうまくいかないことが多いでしょう。最初は完璧にできなくてもよいのです。次の学期、あるいは次の学年と、指導するうちに徐々に慣れて、自身の英語力も付いてくればよいというくらいの気持ちでよいと思います」
重要なのは、子どもの意欲をどれだけ引き出せるかということ。そのために必要なのは、流暢(ちょう)に話せる英語力ではなく、授業の進め方や教材の選び方といった指導上の工夫だと、梅本先生は強調する。
例えば、以下のような流れに沿って授業を組み立て、随所に子どもたちの意欲を持続させる工夫を織り込んでいる(カッコ内は大よその時間配分)。
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イントロダクション(5分)
子どもを英語モードに切り替えるため、英語の挨拶やサイモン・セズ・ゲーム(注)などを行う。
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前時の復習(5分)
英語ノートのCDや、ALTと先生の会話を聞かせる。
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聞き取りの練習(15分)
英語ノートのCDや、ALTと先生の会話を聞かせ、ノートやプリントなどに書き取らせる。
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実践(15分)
時間内に学習した表現を使い、会話などの活動を行う。
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まとめ(5分)
学習した表現を使った問題を子どもにつくらせる。
梅本先生が授業を進める上で留意しているのは、教師があまり説明しすぎないことだ。説明が長すぎると子どもは飽きてしまう。まずは授業をどんどん進める。そして、授業の後半には必ず子どもが主体の活動を取り入れる。子どもは、授業を何度か受ければその流れがわかるため、授業に集中できるという。
ALTがいる場合でも任せきりにせず、担任が率先して前に出て授業を盛り上げる。
「子どものことを最もよくわかっているのは担任です。子どもの表情や反応によって、どのようにすれば集中させられるのか、授業に引き込めるかを考えて、対応できるからです」と梅本先生は話す。
授業は、毎回、単調にならない工夫も必要だ。「お手本をCDで聞かせて書き取りをさせる」というパターンに終始せず、ゲームをやったり絵を描いたりと、いろいろな活動を盛り込むことが必要だ、と梅本先生は考えている。
「『この表現を身に付ける』という目標は決まっています。その目標にたどり着くために、自分なりに教材や指導をアレンジしています」(梅本先生)。
来年度には、文部科学省が外国語活動の教材として作成する「英語ノート」(5年生用、6年生用)が、配られる予定だ。現在、試作版が全国約600の拠点校に配付されている。こうした教材を、目の前の子ども、学校や地域の実態に応じてアレンジすることが大切と梅本先生は強調する。
「ほかの教科でも教材研究をしています。英語でも同様に考えたらよいと思います。クラスの子どもをよくわかっている担任だからこそできる英語の授業があるのではないでしょうか」
小学校英語の目標は、「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成」だ。どのような状況ならば、子どもが自発的に考え、行動していくのか。子ども自身が率先して英語を話せる状況をつくることは、担任が最も得意なことのはずだ。
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