▲無藤隆
むとう・たかし◎東京大教育学部教育心理学科卒業。同大大学院教育学研究科博士課程中退後、お茶の水女子大生活科学部教授、お茶の水女子大附属小学校校長等を経て現職。専門は発達心理学、教育心理学。中央教育審議会では、初等中等教育分科会教育課程部会 小学校部会主査を務める。主著に『現場と学問のふれあうところ~教育実践の現場から立ち上がる心理学~』(新曜社)、『理科大好き!の子どもを育てる~心理学・脳科学者からの提言~』(編著・北大路書房)など。
「活用力」とは、どのような力を指すのか。どのような指導によって身に付くものなのか。 漠然としていてわかりにくい「活用」「活用力」について、 中央教育審議会の委員を務める白梅学園大の無藤隆教授に聞いた。
Q1:「活用力」とはどのような力でしょうか
A1:一言で表せば、「身に付けたことを用いて考える力」です 「活用力」は 「思考力」とほぼ同義と考えてよいでしょう。ただし、漠然とした思考は、「活用」とはいえません。「活用力」は「何かを用いて考える力」です。焦点を絞って子どもに思考させる、「思考の焦点化」を行う必要があり、教師の手立てが不可欠です。 例えば、理科では、机上の学習で身に付けた知識・技能を用いて実験や観察を行い、思考を深めていきます。このときの思考が「活用」です。ただ実験器具を与え、「自由にしてみなさい」と言うだけでは、子どもは何を考えればよいのかわかりません。教師が実験のポイントや考える方向性を示すことによって思考が深まり、「活用力」は育つのです。
Q2:なぜ「活用」が重視されているのでしょうか
A2:国際比較などで、日本の子どもは「活用力」が弱いとわかったからです 例えば、PISA調査(注)の結果、「読解力」の低さが浮かび上がりました。読解力は、文章から情報を引き出し、利用し、熟考するという「活用力」の一つです。今後は、知識・技能の「習得」を基本とし、「活用」「探究」を両輪としたカリキュラムが求められます。「活用力」の育成は重要ですが、活用だけに偏った授業は問題です。「習得」「探究」とのバランスを考えた指導を心がけましょう。
Q3:これまでの指導では、「活用力」は身に付いていなかったのでしょうか
A3:全体的には不十分だったといえるでしょう これまでにも、「活用力」、つまり何かを用いて考える思考力を育てる授業は行われてきました。ただ、そのような授業は教師の経験や力量によるところが大きいため、教師によるばらつきがあったと思われます。その上、教師の世代交代が進み、ベテランから若手への指導技術の継承が難しくなるという問題も生じています。 こうした課題を受け、今回の学習指導要領の改訂では、「習得」「活用」「探究」という言葉を用いて指導の大枠が示されました。どのような教師でも、子どもに「活用力」を付ける授業を同じように実践できるようにするためです。大きくは「こういう方向の授業をしてほしい」という文部科学省のメッセージと受け止めればよいでしょう。 しかし、これはあくまでも大枠です。改訂に伴い、教科書や教師用指導書には「活用力」を育む指導法が盛り込まれるでしょうが、それらは例示であり、ほんの一部にすぎません。「活用」に関する指導法は、研修会などを利用し、力のある先生の実践を見て、真似をし、自分のものにしていくことが大切です。