特集 「考える力」を引き出す授業―理数教科からのアプローチ―

大原ひろみ

▲多摩市立多摩中学校教諭

大原ひろみ

Ohara Hiromi

教職歴26年。理科教師のサークル「ガリレオ工房」に所属し、科学教育について研修。著書に『生きているってどんなこと』(ポプラ社)など。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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私の実践<理科>
大原ひろみ先生
東京都◎多摩市立多摩中学校

予測・計画を立て分析できる生徒を育てたい

目の前の現象から起こる疑問に対して、仮説を立て、実験し、その結果から森羅万象の法則を見いだす理科。その理科の科学としての根源は、やはり実験にあるのだろうか? 真に科学的なものの見方、考え方を身につけさせる大原ひろみ先生の指導法を紹介する。

予測のつく実験では何の発見も驚きもない

 図1は、3年生「理科1分野」の単元「エネルギー」(全14時間)の1時目で通常行われる、小球のエネルギーの大きさを調べる実験の装置だ。
図1 3年生 単元「エネルギー」の実験
図1
なじみ深い実験も、生徒に考えさせ、発見の場をつくるかどうかで、その意味は大きく変わってくる
 実験では、小球をいろいろな高さから転がして木片に当て、木片が動く距離を測る。そして、質量の異なる小球を同じ高さから木片に当て、やはり木片が動く距離を測る。
小球を高い位置から転がすほど、また小球の質量が大きいほど、木片が動く距離は長くなる。これにより、ある物体が持っているエネルギーは、位置が高いほど大きく、質量が大きいほど大きいことがわかる。
 だが大原ひろみ先生は、「この実験を教科書通りにやっているだけでは、理科で本来必要とされる力は身につかない」と話す。
 「小球を高いところから転がしたら、木片は遠くまで動く。小球の質量を大きくしても、木片は遠くまで動く。どちらもエネルギーについて勉強していなくても、予測がつく結果です。予測がつくことを生徒にさせて、予測通りの結果になっても、そこには何の発見も驚きもありません。実験の方法も教師が設定して、生徒は手を動かすだけ。これでは理科的な力は伸びません」
 では大原先生は授業のなかで、この実験をどのように展開しているのだろうか。
 先生はまず、実験装置を生徒に示して、「レールの上から小球を転がしたらどうなる?」と尋ねる。「木片が動く」と生徒たちは答える。「では、レールのもっと高い位置から小球を転がしたらどうなる?」と質問する。「もっと遠くまで木片が動く」という答えが返ってくる。既にこの前段階で、「エネルギーとは、ほかの物体に力を加え、動かすことができる能力」であることは、生徒たちに教えている。そこで先生はこんなふうに生徒たちに話しかける。
 「小球を転がす高さを変えると木片が動く距離が違うのは、高さによってエネルギーの大きさが変わるということだよね。では高さ以外に、エネルギーの大きさが変わる要素としては何が考えられるかな」
 「レールの長さを伸ばすと、エネルギーが大きくなり木片は遠くまで動くはず」「小球の大きさを変えてみたら?」「小球を勢いよく転がせばいいのでは」など、生徒たちは思い思いの発想を言葉に表していく。
 こうした生徒たちの発想を出発点として、「では、それを検証してみよう」というのが、先生の授業だ。生徒たちは、「小球の大きさを変えて実験するグループ」や「小球を転がす速度を変えて実験するグループ」など、10前後の班に分かれて、それぞれの実験に取り組んでいく。


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