カリキュラムの作成にあたっては、各期の間に段差が生じないように、9年間の連続性が考慮された。中でも重視されたのが中期の指導だという。研究主任の二宮肇美先生(五番町小学校兼務教諭)が話す。
「前期の子どもは主に具体物を用いて思考し、後期になると物事を抽象的に考えるようになります。その狭間の中期は、具体から抽象へと思考方法が大きく変わる時期で、発達の個人差も大きい。そのため中期の指導を成功させることが研究の大きな課題として位置づけられました」
こうして作成された中期のカリキュラムは、「国語」「算数・数学」「英会話の時間」「中期選択教科」「生き方学習」が大きな特色となっている。次にそれぞれの内容を紹介する。
【国語】
「論理的・抽象的な言語の力」を育てる中期
国語のカリキュラムの作成は、9年間の指導内容を見直し、体系的に組み立て直すことから始めた。その過程で小学校と中学校の教科書を比べたところ、同じ作品が掲載されていると気づいたこともあったという。それを教師が知らないままであれば、「また同じ作品か」と子どものやる気を削いでしまうことになる。また、音読や暗唱など、声を出す機会が多い小学校の授業と、教師主導型でノート記入中心の中学校の授業との間には、大きな段差がある。そうした問題を取り除き、年次を追って着実にステップアップさせる指導案が練られた。
各期のテーマは、前期が「正しく伝え合うための言葉の育成期」、中期が「論理的・抽象的な言語の育成期」、後期が「個性を伸長するとともに、社会性を備えた言語の育成期」である。移行期となる中期では、単元によっては中学校の教師が5・6年生を指導し、中学校の学習内容を意識した授業が展開されるなど、各期の連続性が強く意識されている。
【算数・数学】
具体から抽象への橋渡しをする課題学習
二河中学校が実施した調査によると、算数から数学になって授業の内容が「難しくなった」と答えた子どもは98%に上った。その主因と考えられるのが、数学では抽象的な内容が増加することだ。それを乗り越えさせるための橋渡しとして、5・6年生に週1回の「課題学習」を取り入れている。これは教科学習とは離れ、数学的に“不思議”な事象を取り上げることで、数学に興味を抱かせるのがねらいだ。この授業は中学校の教師と学級担任とのチーム・ティーチングで展開される。
また、中期の生徒は発達の差が大きいことから、授業では具体と抽象の双方から理解させるように努めている。二宮先生がその指導法を「負の数」を例にして説明する。
「授業の冒頭ではトランプを用いて、赤は“マイナス”、黒は“プラス”として計算のゲームをさせます。この段階では大半の子どもは支障なく計算できるんです。ところが、次に式に表して計算させると、解ける子と解けない子に分かれます。解ける子は抽象的に理解しているということですから問題ないとして、解けない子は何度もトランプに立ち返らせて理解を促します」
【英会話の時間】
英語のシャワーを浴びせ「聞く力」を育成
英語のコミュニケーション能力を育てる授業が「英会話の時間」だ。この授業は、音声識別能力や聴解能力などがピークを迎えるといわれる中期の各学年に20時間ずつ設けられている。本格的な英語学習への移行期間としても考えられており、中1生は「英語科」と並行して学習する。
授業では、特に「聞く力」に重点が置かれている。日常生活にかかわるテーマを月ごとに設け、それに沿ってロールプレイで学んでいく内容だ。指導では、“繰り返し”の学習が重視されているのも特徴となっている。一見、退屈に思える文や単語の復唱を、リズミカルに繰り返したり、トーンを変えて発音したり、方法を工夫することで、子どもたちはメロディを口ずさむように楽しんで声を出している。
【中期選択教科】
自ら選択・決定する力を育てる
現行の学習指導要領では中1生から履修することになる選択教科を、中期の小5生~中1生に導入。1回の授業を2時間単位(100分間)とし、年10回20時間で異学年の合同授業を展開している。
「自ら選んだテーマをじっくり追究する問題解決的な学習の時間と位置づけています。自分で選択した授業ですから、子どもの学習意欲は非常に高いです」(二宮先生)
更に早い年次からコースを選ばせることで、自らの判断で選択や決定する能力を育てることも念頭に置かれている。
3校の特別教室や体育館で行われるこの授業では、中1生がリーダーとして下級生をまとめるが、それが中1生の学習意欲に非常に好影響を及ぼしている(写真1)。
「下級生にアドバイスを行う立場上、しっかり調べたり学んだりしようという気持ちで臨む子どもが多いですね」(二宮先生)
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