特集 つながる小中の「学び」―小学校から中学校、その接続を考える―

牧田秀昭

福井市至民中学校教諭
牧田秀昭

Makida Hideaki


教職歴22年。学ぶ意義を実感する数学科カリキュラムを継続研究。教師の力量形成にも関心が高い。共著に『中学校新数学科授業の基本用語辞典』(明治図書)、『中学校を創る』(東洋館出版社)ほか。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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実践事例[数学]
牧田秀昭 先生
福井県 福井市至民(しみん)中学校

“具体”と“抽象”を行き来する授業で数学の世界へ誘う

中学校に進学した生徒が、最も苦手意識を抱きやすい教科の一つが数学だ。その背景には、抽象的な概念の増加や、授業の進み方が速くなるなど、さまざまな要因がある。
ここでは、至民中学校の牧田秀昭先生の授業を通し、算数から数学へ無理なく移行させるための指導法を探る。

日常生活の要素とグループ活動を授業に

 牧田秀昭先生は、算数から数学への移行の最大のハードルは抽象的な概念の増加とし、中でも「負の数」と「文字式」の二つの単元でつまずく生徒が多いと指摘する。
  「負の数は、日常的には使っているものの、いざ頭の中で理解しようとすると難しい。また、小学校までは『答えはいくつ?』と明快な答えを求められていたのに、未知数や変数を表す文字で答えるようになります。その場合、『x+1』といった『式』が最終的な答えになることもあり、式と答えの区別ができずに混乱してしまう生徒もいます」
  学習内容が抽象的になるほど、日常的な具体物に置き換えるのは難しい。そのため、自ずと数学の授業は、冒頭から「この問題を解いてみよう」といった“講義”が主体の内容になりやすいと牧田先生は話す。
  「講義形式の授業では、まわりの友人に相談しづらいため、生徒は『一人で解決しなければならない』と思い込みやすいんです。そのため、いったんつまずいてしまうと、だれにも相談できず、どんどん置いていかれるという状況が生じやすくなります」
  そこで牧田先生は、1年生の授業には、極力、日常的な要素を織り交ぜると同時に、グループ活動を充実させて「まわりの人に相談してもいいんだ」という気持ちを芽生えさせることを心掛けているという。
  例えば、「負の数」の授業では、身のまわりから“マイナス”を探し、それを教室に持参させる。教室には、ゴルフのスコア、ラップ(耐熱温度)、マイナスドライバーなど、さまざまなものが持ち寄られる。生徒はその中から題材を一つ選び、内容をパネルにまとめる。次にそのパネルをグループ内で比較し、仲間分けをする。
  すると、大半のグループは【「時差」「体重差」「水深」】と【「電池」「マイナスイオン」】のように、“数量”があるものとないものに分類する。ここまでは、「プラスに対して、その反対のマイナスがある」ということをはっきりと認識させるのがねらいだ。
  更に分類を促し、先生はグループを回る。すると、あるグループから「基準が固定されているものと、変動するものがある」との考えが出される。「温度計」は絶対的な0度が基準だが、「気温(前日比)」の基準は前日の気温によって変動するという違いだ。その考えをほかのグループにも広げることで、生徒はプラス・マイナスは0を基準とした固定的な数だけではなく、変化や差も表せることを理解していく。
  次の段階では、数直線を描き、生徒に気づいたことを発表させながら、「絶対値」「符号」「整数」「自然数」といった用語を紹介する。中には負の数に対し、「1個のチョコレートはあるけど、マイナス1個のチョコレートはない。言葉はあるけど、本物は存在しない。空想的なものなのでは?」といった根源的な疑問を抱く生徒が出てくる。それをすべての生徒に考えさせるために、先生は議論を促す。その中で、「3匹や3個は目に見えるけど、3自体は目に見えない。その意味ではプラスもマイナスも一緒だ」といった考えが出される。
  「馴染みのあるプラスと共通する性質を見いださせることで、抽象的概念の理解につなげます。ここまで理解できれば、その後の計算演習がスムーズに進みます」

図1

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