特集 つながる小中の「学び」―小学校から中学校、その接続を考える―
北原延晃

狛江市立狛江第一中学校教諭
北原延晃

Kitahara Nobuaki


教職歴29年。共著に『英語教師の知恵袋』『授業で使える英語の歌20』(以上開隆堂出版)など。現在、東京都中学校英語教育研究会研究部長。英語指導の研究会(注1)を主宰し、後進の指導にも力を入れる。

注1 英語基本指導技術研究会
(略称:北研)
http://www2.hamajima .co.jp/
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VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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実践事例[英語]
北原延晃 先生
東京都 狛江市立狛江第一中学校

言語の習得過程を踏まえ生徒の活動を重視した授業を展開

外国語を学習するときに必要となる 聞く・話す・読む・書くの四つの技能を中1生が学ぶとき、 初期指導として留意すべきことは何か。
私たちが言語を身につける際の状況、過程を踏まえて、 より自然な形で生徒が英語と接していくように 授業を構成する北原延晃先生の指導を紹介する。

歌を通して多くの英文に接する

 北原延晃先生の英語の授業は、毎時間、音楽に合わせてジェスチャーつきで英語の歌を歌うことから始まる。歌うのはザ・ビートルズやスティービー・ワンダーの曲など、生徒にとっても親しみやすい作品ばかり。月に1曲のペースで、歌詞をすっかり暗記できるところまで歌を覚えていく。
  生徒が入学して最初に歌うのは、「ABCソング」。次に「Old McDonald」に取り組み、1学期の終わりの時期に挑戦するのが、ザ・ビートルズの「Hello Goodbye」だ。生徒は先生のジェスチャーを真似たり、自分なりの身体表現を交えたりしながら、みんなで「Hello Goodbye」を歌う。ジェスチャーというのは、胸に手を当てれば「I」、手でハートの形をつくれば「love」というように、歌詞に合わせて身振りをつけるというものだ。「Hello Goodbye」の歌詞は、簡単な単語ばかりで構成されているものの、生徒たちは1年生の1学期とは思えないほどきれいな発音で歌い上げる。
  北原先生が授業の中に歌を取り入れているのには、いくつかのねらいがある。
  一つめのねらいは、歌うことで、生徒が楽しみながら英語の発音を正確に習得できること。夏休み前に1年生が「Hello Goodbye」を歌い上げられるのは、その成果といっていいだろう。
  また、北原先生は1年生の時期、歌の場面だけではなく、授業中に生徒がある単語をうまく発音できなかったときには、席を回って一人ひとりの発音を確認して直すことも行っている。
  「発音はコミュニケーションの基本です。発音に自信を持つことで、生徒たちはその後のさまざまな言語活動に、気後れすることなく参加できるようになるんです」
  二つめは、歌うときにジェスチャーを取り入れることで、英語を日本語に変換して意味を覚えるのではなく、文字通り“体で覚える”という体験をさせるためだ。体で覚えた英語は、日本語を経由しなくてもすっと耳に入り、口から出ていくようになる。
  三つめは、歌の中で、生徒がまだ学習していない英語の構文や単語に多く触れさせること。もちろん生徒は、構文や単語を正確に理解して歌っているわけではない。しかし北原先生は「意味がわからなくても、英語にたくさん接することが大切」と言う。
  「日本語の歌を覚えるときも、子どもは必ずしも歌詞の意味がわかっているわけではありませんよね。あるとき、『あの歌詞は、こういう意味だったのか』とふと気づくものです。英語でも同じ。意味がわからなくても、歌うことで頭の中にたくさんの英文のストックができます。それがあとになって、例えば現在完了形について学んだときに、『あの歌のあのフレーズは、現在完了形を使ったものだったんだな』ということに気づく。するとそのフレーズとともに、全体の歌詞も一緒にパッとよみがえってくるものなのです。センテンスだけを切り取った例文を暗記するのと違って、その構文が全体の文脈の中でどのような使われ方をされているのかまで、深く理解できるようになります」

写真1
写真1 身振り手振りを交えながら、英語を体と音で体得させていく北原先生の授業

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