■静岡県 富士市立吉原東中学校
校長●齋藤朗三先生
生徒数●181人 学級数●6学級 〒417-0847 静岡県富士市比奈75 TEL 0545-34-0283 FAX 0545-34-0392 URL http://www.city.fuji. shizuoka.jp/‾j-higashi/
本誌特集の事例で紹介した静岡県富士市立吉原東中学校では、生徒同士の「学び合い」を生む授業づくりを目指して、日々研究が進められている。2006年11月1日に行われた公開授業研究会で、中心授業となった国語(3年A組 杉澤和樹先生)の様子をレポートする。
杉澤先生:「芭蕉はなぜ、最初に『蝉』と書いたところを『せみ』に書き直したんだろうね?」
生徒A:「『蝉』より「せみ」のほうが優しい感じがするから」
生徒B:「『蝉』だとたくさんの蝉が一斉に鳴いているような印象を受けるけど、『せみ』だったら、蝉が一匹だけ鳴いているように感じられて、直前の『しみこむ』という句が生きると思う」
杉澤先生の今日の授業は、松尾芭蕉の「立石寺」の句の読解。句ができるまで、3回にも渡って行われた推敲の過程をたどりながら、その時々の芭蕉の心情や表現の意図を読み解いていく授業だ。生徒には図のようなプリントを事前に渡し、あらかじめ自分の考えを整理させてある。今日の授業では、プリントにまとめた各々の考えを発表し合う中で、句の読解をクラス全員で深めていくのが狙いだ。机の配置は生徒が互いの意見を述べたり、聴き合ったりしやすいよう「コの字型」になっている(*)。
だが、今日の授業は、一般的にイメージされる「学び合いのある授業」とは少し趣が異なった。50分の授業時間を通じ、生徒同士がワイワイ話し合ったのはわずか1回。生徒同士の「聴き合い」が授業のベースになっていたのである。
「プリントを事前に渡し、あらかじめ自分の考えを整理させているわけですから、まずは自分の考えをしっかり発表して欲しかったんです。授業の最初にグループで話し合わせてしまうと、友だちの考えに影響されてしまう生徒もいますからね。グループでの話し合いは、『意見が出尽くしたな』と感じたときに1回だけ入れました」
(杉澤先生)
そんな狙いがあるだけに、今回の授業では、他の生徒の意見をきちんと受け止めた上での発言が目立った。「××君はこう言ったけど、僕は~だと思う」「○○さんの意見と私も同じです。でも、理由はちょっと違っていて…」といった発言が飛び交っていた。
実は杉澤先生は、そうした発言を引き出すべく、ある仕掛けを発問の中に盛り込んでいた。生徒が発言した後に、「他の意見がある人は?」とはあえて聞かずに、「同じ意見の人や、補足したい人はいる?」といった形で、まずは「同意」を積み重ねるための発問を投げかけていたのだ。
「生徒同士の話し合いをうまく成立させるためには、『同じ意見を持つ仲間がいるんだ』という安心感を与えることがまずは大切なんです。せっかく発言してくれた生徒がいても、その直後に『他の意見の人はいないかな?』なんて聞いてしまうと、きっとその生徒は『自分は間違ったことを言ったんだ』と自信をなくしてしまうでしょう。特に、日ごろ積極的に発言ができない生徒には、安心して自分の意見を言える環境を与えることが大切です」