耳塚 先生方が平均家庭学習時間や授業の理解度の上昇を、手放しに評価しているわけではないことがよくわかりました。
私が気になった調査結果は、「予習より復習を中心に勉強する生徒」の増加と、「難しい問題をじっくり解くのではなく、やさしい問題を数多く解く生徒」が増えていることです。高校の進学校の生徒の学習方法はこれと全く逆で、家庭学習では予習が中心で、しかも難しい問題にじっくり取り組むことに多くの時間を割いています。つまり、今の中学生の学習は、成績が中・下位層の生徒に適した学習パターンになっていると思うのですが、これについてはどう考えられますか。
山崎 埼玉県の公立中学校の研究事例を見ると、ほとんどの学校が「基礎・基本の定着」をテーマに掲げています。どの学校の先生も、成績が低迷している生徒を何とかしたいという思いを、以前よりも一層、抱いているということでしょう。ただ、多くの学校の取り組みは、授業の復習やドリル学習の反復といったレベルにとどまっています。本来、そこで行うべき思考力や判断力を養成するところまでは、なかなか組み込めていません。そのため、生徒の家庭学習も、「復習中心」で「簡単な問題中心」になっているのではないでしょうか。もう一つの大きな背景は、生徒の気質の変化です。未知の問題に遭遇したときに、すぐに「これは習っていないからわからないよ」と投げ出してしまう。
こうした中学校の学習指導の傾向と生徒の気質の変化が相まって、「予習中心で、難しい問題に取り組む生徒」が減ってきているのではないかと思います。
関本 難しい問題にチャレンジする生徒は、人から指示されなくても、自ら学習に向かう力を持っているものです。そういう生徒が、最近減っているように感じます。教師から言われたことはやるけれども、それ以上はやらない。自主的に勉強しようにも、そもそも勉強の仕方がわからない生徒が目立ちます。
本橋 そこは私も課題と捉えているところです。私は現在3年生を受け持っていますが、1年生のときから生徒に「家庭学習ノート」を課しています。勉強する教科や内容は何でもよいから、毎日ノートに必ず書いて提出させるようにするのです。
最初のころは、漢字練習だけ、計算問題ばかり、という生徒がいました。そこで、「次はこんな勉強をしてみたらどうだろう」というコメントを書いてノートを返すようにしました。このように教師が細かくアドバイスをしながら、生徒に少しずつ自分自身の学びのスタイルを確立させるようにしています。
耳塚 生徒の家庭学習が復習中心か、予習中心かについては、学校が課す宿題の内容によっても違うと思います。また、宿題の量は家庭学習の量にも反映します。中学校は、どのような内容でどれくらいの量を生徒に出しているのでしょうか。
山崎 その点は、まさに中学校が課題とすべきことです。私が勤務する福岡中では、数年前までどの教師がどれくらいの量の宿題を出しているのか、学年全体で把握できていませんでした。他校では、全体の宿題の管理調整をしっかりしているのでしょうか。
関本 多くの中学校が似たような状態だと思います。長期休暇中の宿題は生徒向けに「課題一覧表」を作りますから、把握できますが。
耳塚 そうすると、教師が他教科に気兼ねして宿題を出すことを見合わせているために、生徒からすれば、ほとんど宿題がないといった状況もあるのでしょうか。
山崎 それはあります。ただ、ここ数年家庭学習時間の減少が大きな問題となりましたから、以前に比べて宿題を多めに出すようにしているはずです。家庭学習時間が上昇に転じたのも、そうした影響があるのでしょう。
耳塚 教科担任は、担当教科の学習については生徒に指導ができます。しかし、担当教科だけでなく、「英語の勉強も大切だけど、数学の勉強時間ももっと増やしてごらん」とか「難しい問題にも挑戦してみようよ」というように、全体のバランスを見ながら指導できる教師の存在が必要ということですね。
本橋 それは、クラス担任の役割ですよね。しかし実際には、教科担任とクラス担任のコミュニケーションがうまく取れていないケースが多く、生徒の学習状況をしっかり把握できていないこともあると思うんです。私の場合、「家庭学習ノート」のおかげで、クラスの生徒の学習状況が比較的つかみやすい。ノートを通じて生徒個々の学習指導をしています。
耳塚 クラス担任と教科担任が、互いに生徒の学習状況を共有できる仕組みを構築することが重要ですね。その一つとして「学習カルテ」などをつくるのも効果的だと思います。
|