耳塚 先生方のお話をうかがってきて、現在、中学校では、どちらかといえば学力が身についていない層、あるいは学習習慣が定着していない層への手立てに力を入れていることがわかりました。ところが、家庭学習時間を見ると、成績の中・上位層の伸びが著しいのに対し、下位層はほぼ横ばいとなっています。つまり、学校の熱意が、まだ功を奏していない。下位層の学習意欲の向上や学習習慣の定着は、非常に難しい課題といえそうですね。
関本 私はやはり、家庭を巻き込んだ学習指導が鍵を握ると考えています。本校では、夏休みに全学年で三者面談を行い、1学期の通知表はその場で渡すようにしています。観点別評価に移行して以来、保護者は子どもの学習の状態を把握しにくくなっています。そこで、教師が「A君にはこういう学習に力を入れてほしいと思います」といった説明を、保護者を交えてするわけです。
本橋 下位層の生徒に対しては、基礎・基本の復習をさせるばかりでなく、ときにはあえてハードルの高い課題にチャレンジさせることも有効です。私の担当教科は英語ですが、先日、自分たちの住んでいる街をビデオカメラで撮影し、それに英語のナレーションをつけるという活動をしました。教科書の範囲を超えた英語力が必要となるため、英語の得意不得意にかかわらず、みんな同じように辞書を一生懸命引いて、ALTの指導を仰ぐという状況になりました。このとき、英語が苦手な生徒が「自分にもできるかもしれない」と、ALTに添削してもらった英文を必死に暗記し、本番に臨む姿が見られました。
このように、下位層の生徒がほかの生徒と一緒になって、主体的に学習に参加できる機会をどれだけ設定できるかが、生徒の学習意欲向上のポイントになると実感しました。
山崎 クラスが持つ集団の力をプラスに作用させると、クラス全体の学力が大きく伸びるときがあります。生徒の間には、暗黙のうちに成績の序列ができているものですが、定期テストなどで成績下位の生徒が奮起して高得点を挙げたときに、固定化された関係が揺さぶられます。その瞬間を見逃さずに「よく頑張ったね」と褒めると、頑張った生徒はその達成感から、まわりの子は危機感から、学習意欲が高まります。学習に苦手意識を抱いている生徒も、成績上位の生徒も、一緒になって引っ張り上げることができるわけです。
耳塚 なるほど。そうした手法も有効ですね。一番大切なのは、個々の教師の優れた実践をほかの教師と共有し、継続できる仕組みをつくることではないでしょうか。よく学校は「ノコギリの刃」といわれ、1人の優秀な教師が生徒の学力を伸ばしても、その異動と共に元に戻ってしまうといった現象が起こりがちです。生徒の学習上の課題を解決するには、今まで以上に教師間の連携が重要になると思います。本日はありがとうございました。
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