生徒数759人の浅川中学校は、北九州市内で2番目に規模が大きい中学校だ。その校区にある三つの小学校のうちの一つ、光貞小学校の竹治あけみ校長から「音楽の指導をしていただけませんか」と、同中学校の酒井正治校長に申し出があったのは2006年5月のことだ。北九州市が進める事業「ティーチャーズ・ネット」を活用した中学校教師の小・中学校間兼務の要請である。その内容は、「11月に開かれる音楽会に向けて、6年生の合唱と演奏を指導してほしい」というものだった。酒井校長は早速、音楽科の教師2人に打診。両名の快諾を受け、小・中学校間兼務が実現した。
中学校の音楽教師が光貞小学校で指導するのは、1学期に1回、2学期に2回の計3回。両校の担当教師が直接会って打ち合わせをすることが時間的に難しかったため、具体的な指導内容はファクスや電話でのやり取りで調整していった。
「光貞小学校からの要望は、『校歌を合唱用にアレンジしたい』というものでした。そこで、まずファクスで小学校での音楽の指導計画と校歌の楽譜を送ってもらい、私たちがどのような指導をすべきか考えました。実際に編曲した校歌は、本校の合唱部の生徒たちに歌ってもらい、小学生向けのアレンジとして適切かどうかをチェックしました」(音楽科・花田佳子先生)
こうした準備を踏まえた上で、1回目の指導では、児童たちの現状を把握し、基本的な歌唱・演奏法を指導した。2回目には効果的な表現の仕方などを指導し、仕上げとなる10月の3回目の授業では最終チェックを行った。
「小学生にとって中学校の先生は遠い存在だったようですが、専門的な内容を教えてもらえるという喜びは大きかったようです。子どもたちはいきいきして、緊張感を持って授業を受けていました」(竹治校長)
3回の指導を通して、合唱も演奏も格段にレベルアップしたという。中学校教師が1回だけの体験授業で教えるというのではなく、小学校の年間カリキュラムを見据えて段階的に指導した成果といえるだろう。
「小学校のカリキュラムのどの部分を中学校の先生方に指導していただけば効果が上がるかを考え、授業の内容を調整していきました」(竹治校長)
中学校の教師にとっても、校区の小学生を教えることには大きなメリットがあると、花田先生は話す。
「小学生に直接教えることで、来年度入学してくる子どもたちが、小学校卒業時にどのくらいのことができるかを把握できます。特に、授業時間数が少ない音楽などの教科では、子どもたちが何を学んできたのか全くわからない状態から授業を始めるのに比べると、とてもプラスになると思います」
酒井校長も小・中学校間兼務の効果について、「将来、本校に入学してくる子どもたちの様子や雰囲気を直接つかめるのが、大きなメリットです。小学生を教えることで、教師の指導の幅も広がるでしょう」と話す。
|