特集 生徒が変わる「キャリア教育」

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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キャリア・スタート・ウィークで 「生産者」としての経験を積む

 「5日間以上の職場体験」というかけ声の下、文部科学省の「キャリア・スタート・ウィーク」が本格的に始まります。しかし、この事業の実施自体がとても大変なことですし、「職場を体験するだけで、何か意味があるのか」と、疑問に感じている先生も多いと思われます。私は、事前・事後学習を含めた職場体験は、あくまでも自分の将来を選択できる力をつけさせる「第一歩」という位置づけで考えればよいと思います。
 自尊心や自己肯定感がなければ、パワーは生まれません。パワーを生み出すキーワードは「参加」です。自分が何かに参加することで、だれかに影響力を与える経験が必要なのです。モノやサービスを消費するだけの存在ではなく、自分が働きかけ、価値を生み出し、世の中に提供していく。職場体験は、そんな生産者の立場を経験する良い機会です。
 かつての日本では家庭でも生産者の手が足りず、子どもも「お手伝い」という形で生産者側を経験せざるをえませんでした。ところが、社会が豊かになり、子どもは消費する側に特化し、生産者としての経験が不足しています。就職してから初めて生産者側に立った子どもが会社になかなか馴染めないのは、そこに一つの原因があるでしょう。そこで、職場体験などの生産活動をプログラムに入れる必要があるわけです。
 今の子どもは、明るい将来を展望しにくい状況にあります。そこから脱却させるには、早い時期にこれまで知っている世界とは別の世界の価値観に触れさせることが必要です。狭い価値観の中ではどうしてもマイナス志向にならざるをえなかった子どもに、「こんな生き方もあるのか」「世の中、これもあっていいんだ」と、揺さぶりをかけることが大切です。
 職場体験は事業所で働くことを軸にしながらも、それ以外のスタイルを取り入れてもよいと思います。例えば、講演会を組み合わせて、学校段階ではうまくいかなかったものの、社会に出て立派に仕事をしている人の話を聞くのもよいでしょう。異文化体験などを行ってもよいと思います。それぞれの学校が抱える課題を踏まえて、今までの発想ではできなかったことを、この際だから「何でもあり」でできる、という前向きな捉え方をしてはいかがでしょうか。実際問題として、地方などでは、体験学習を受け入れてくれる地元の事業所が極めて少ないケースがあります。特にその場合は、ほかの活動と柔軟に組み合わせる必要があると思います。


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