特集 生徒が変わる「キャリア教育」

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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キャリア教育の4能力領域を教科の中でも育成する

 「学力向上部」を研究指定の当初から設置し、キャリア教育と学力の関係について研究しているのも同校の特徴だ。職場体験の事後学習では、「事業所はどんな人材を求めているのか」ということを今の自分と比較させながら、これから学ぶべきことを生徒に意識させる。
 更に、通常の教科の授業も、同校はキャリア教育の観点から見直した。校務総括・指導担当の小田源徳先生はこう話す。
 「キャリア科だけがキャリア教育の場ではありません。各教科で検討し、キャリア教育の4能力領域を関連させたカリキュラムを考えました
 例えば、数学では「課題解決能力」と「情報収集・探索能力」を、英語では「自他の理解能力」と「コミュニケーション能力」を焦点化するキャリア能力に定め、各単元との関連を明確にしている(図1)。「キャリア教育はある特定の時間だけで行えばよいというものではありません。日々の授業を見直していくことも、子どもが将来を考える力を養うことにつながるはずです」(小田先生)

図1

 キャリア教育の導入にあたり、同校には二つの課題があった。一つは小中接続だ。校区の14の小学校のうち10校は小規模校で、中学校では慣れない大集団に戸惑い、不登校になる生徒もいた。もう一つは学習面の課題だ。学んだことが将来どのように役立つのかがわからず、学習を苦痛に感じる生徒もいた。ところが、小中連携によるキャリア教育を続けた結果、不登校の生徒はほぼ半減し、前向きに学ぶ姿勢が少しずつ根付いてきたという。
 教師も変わった。3年前、スーツにネクタイ姿、そして名刺を携えた教師が総出で、商工会議所や市教育委員会など関係機関の協力を得ながら事業所を訪れ、訪問先を開拓していった。100か所近い事業所の協力が得られた背景には、教師の地道な行動がある。
 「事業所が手を挙げてくださるのを待つだけでは、だめでしょう。全校を挙げて地域に出向くことで、学校と地域とのつながりも強くなる。これも大きな狙いでした」(井上校長)
 07年度には、協力してくれる事業所を学校に招待し、職場体験説明会を開くことにした。2年間かけて積み重ねてきた事業所との信頼関係を土台に、より深い相互理解を図る。全学級のキャリア科の授業を公開する「キャリア参観日」も行う予定だ。
 「地域、保護者、学校が一体となり、『みんなで子どもを育てよう』という雰囲気を醸成したいのです。その中で、生徒には人として、社会人として、職業人として必要な力を身につけさせたいと考えています」(井上校長)


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