思春期に入ると、自分をある程度客観視し、それまでとは違う視点で自分の学びを問い直すようになります。もちろん、小学校から継続して学習そのものの面白さを伝えることは大切ですが、中学校では自分の将来や生き方と今の学びをどのようにつないでいくのかという視点を提示することが必要なのです。
ただ、小学校では「足し算・引き算ができないと大人になって生活できない」と、学びと自分の将来を結び付けて伝えやすい面があります。ところが、中学校で学ぶ関数は、必ずしも日常生活に必要なものではありません。そこが、難しいところです。例えば、「関数ができないと、科学者になれません」と強調してしまうと、生徒は「別に科学者にならないからいいよ」と、関数の学習に意味を見いだせません。このような、「自分の就きたい職業」と「学んでいること」の一対一対応を強調するキャリア教育は、1970年代のアメリカで一時的に広く行われていました。その結果、哲学や歴史学などを軽視する風潮が強まってしまったのです。キャリア教育を進めれば進めるほど、反アカデミックになっていったという経緯があります。
学びと職業とを結び付けることは大切ですが、それだけでは不十分です。例えば、関数を知らなくても生きていけますが、関数が支えてくれていることは社会にたくさんあります。単に自分の将来だけではなく、学校で学ぶ「知」が私たちの社会を支えていることに気づかせることもキャリア教育の重要な役割の一つです。
手始めに、各教科を担当する先生ご自身が、今教えている教科をなぜ好きになったのか、どうして職業として教えているのか、教科と社会との関係をどのようにお考えか、是非、生徒に話していただきたいと思います。それもキャリア教育の一つとなるのです。
|